第44話 <死んじゃだめ!>

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第44話 <死んじゃだめ!>

アパートの部屋に帰って一息つくと、 ピリリ!と電話の着信が鳴ったので バッグからスマホを取り出した。 佑!? さっきまで佑の事を考えていただけに、 スマホの画面を見て心臓がドキンと鳴った。 「もしもし? どうしたの!?」 何だろう? こんな夜に。 「うん、何だか声が聞きたかった」 風の音だろうか? ぼうぼうというノイズが声にかぶっている。 「あんまり良く聞き取れないんだけど、どこにいるの?」 「屋上、学校の」 「え? こんな時間に?」 時計は夜九時を過ぎた頃だった。 「一緒に会社立ち上げた仲間がさ、 俺が知らないうちに別の奴と新しい会社起こして スタッフとお客みんな引き連れて去ってった。 俺一人、からっぽのオフィスだけ残された」 淡々と佑は言った。 「何もかも無くなったよ」 何て言っていいか、私は言葉に詰まった。 「楽しかったな……、 あの頃」 声はだんだん力なくなっていった。 「ちょっと大丈夫?」 「果穂と一緒にいた時間、俺、幸せだった ありがとな」 「何その言い方!」 あえて明るく言ってみせたが、 電話の向こうからは何も応答がない。 「ねぇ佑、大丈夫!? しっかりしてよ!!」 ちょっと心配になって大きめの声で話しかけた。 「俺はもう疲れた…… 少し、眠る……」 そう言って電話は切れた。 「佑!!」 眠るってまさか! 何だかとても嫌な予感がした。 私は慌てて外に出てタクシーを捕まえ、 学校まで走らせた。 「お釣りはいいです!!」 運転手さんにそう言い、 学校のエントランスはもう閉まっていたので、 7階分の非常階段を必死で駆け上がった。 7b39302d-6b63-464c-a575-d819f5ad7eb3 「間に合って! そこから飛び降りたりしないで!!」 はぁはぁと心臓が破れそうになりながら屋上に着くと、 佑が横たわっているのが見えた。 「嫌だ!! 佑!!」 叫んで駆け寄り、体を揺さぶったがぐったりしている。 「死んじゃだめ!!」 息があるかどうか口元に顔を近づけて確認した。 「さ、酒臭い……」 「うーーん」 佑は寝苦しそうに寝返りを打った。 「もしや…… 酔っ払って寝てる!?」 私はその場で脱力した。 「もう…… もう!!!」 思わず佑の体をばんばん叩いた。 「痛てて、何だ!?」 佑は顔をしかめて目を覚ました。 「心配するじゃん!! 家からすっ飛んで来た!!」 安堵からか涙をぽろぽろ流しながら訴えた。 「何泣いてんだよ」 いてて…… と言いながら佑は体を起こした。 「死んじゃうかと思った」 「バカ、死ぬか」 佑は言った。 「ヤケ酒飲んで、学校に来たくなってお前に電話した」 私の涙を手でぬぐいながら言った。 「そしたら何だかすごいほっとして、急に眠気に襲われて。 この所あんまり眠れてなかったっていうのもあるけど……」 「とりあえず、佑が生きてて良かった」 そう言って私はまたポロポロと涙をこぼした。
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