第46話 <繋がる一本の道>

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第46話 <繋がる一本の道>

「佑!!!!」 私はベッドにいる佑をゆすった。 「何なに?」 佑は眠そうな目をこすってこっちを見た。 「こ、これ!!」 お守りを目の前に出したが、目が悪くて良く見えないようで、 眉間にしわを寄せて目を細めた。 ベッドサイドのメガネを手渡すとやっとそれが見えたようで、 「うわ!!」 と声をあげた。 「あれ? 見つけちゃった?」 肩をすくめて佑は言った。 「どういうこと!? 佑がこのリングの持ち主なの!? なんで!? いつから私のこと知ってたの!? どうして正体を隠してたの!?」 矢継ぎ早に質問責めにした。 「いや、別にやましい理由があって 隠してた訳じゃないんだけどさ」 そう言って頭を掻いた。 「長い話になる。 覚悟して聞け」 「うん」 私は固唾を飲んだ。 5b052a24-d444-48b8-b4c1-19978a842659 「俺、子供の頃腎臓が悪くてさ、 小渕沢の家からお袋の実家のある東京に お袋と一緒に上京してずっと入院してたんだ。 腎臓を移植すれば元気になるって言われて ずっとその時を待ってたんだけど、ある時急にドナーが見つかって、 急遽手術する事になったんだ」 佑はこれまでの経緯を話し始めた。 「手術の後、麻酔から目が覚めるか覚めないかくらいの時にさ、 看護師さん同士が交通事故で隣の病室に入院していた女の子が 俺に臓器提供したって話しているのを聞いちゃって」 全ての記憶が今、一本につながっていくような感覚がした。 「おかげで俺は元気になったんだけど、 ずっとあのリングをあげた子があれからどうしているのか気になってた。 で、高校の時、病気の事で調べ物をしていたらお前のブログを見つけたんだ。 あのピンキーリングの写真も載ってて、『あ、あの子だ!』って」 私は情報処理が追いつかず、 呆然と立ち尽くしたまま佑の話を聞き続けた。 「俺、そのブログを読んで、お前の状況を知った。 俺が元気に生きられる人生をくれた恩人の妹が、 悲しい思いをしてて心が痛かった。 そしてお母さん思いの優しい子だなって事も知った。 だから俺はいつかこの子に会って支えになりたいって思ったんだ。 しばらくしてブログで海浜公園の近くの 映像関係の専門学校に行くって書いてあったのを見て、 俺は美容師の学校に行こうとしてたのを 急遽とりやめて同じ学校に入学を決めて、 運良くお前と同じクラスになれた」 こんな…… こんなことがあるだろうか? 「ここまで聞いて、引いてないか? ストーカーみたいって……」 心配そうに私の顔を覗き込んだ。 「大丈夫…… だけど!」 私は「はっ!」となった。 「ずっとブログを読んでたってことは、 ラブラブな内容書いていたのも、もしかして見てたの!?」 そう言うと 「え?」 と佑はニヤニヤと緩みそうな口元を 一生懸命こらえているような表情をした。 絶対読んだな…… 私は確信した。 「正体を隠してたのは、 リングの渡し主が俺みたいな奴だと がっかりするんじゃないかって。 お前にとってそのリングは神様みたいな存在だったから、 急に現実味を帯びた男が『俺です』なんて出ていったら、 お前のすがるものがなくなるんじゃないかって思ったんだよ」 はぁーー 何だか気が抜けてへなへなと私はその場にへたりこんだ。 「おい、大丈夫か?」 佑はベッドから降りて、私を支えた。 「最初はただ陰ながら支えるだけで良かった。 お前が幸せになるのを見届けたら、そっと離れようって。 でも毎日お前がコロコロ笑ったり、 健気に買い出しとかみんなの雑用をこなしてるのを見て、 もっと近づきたいって思うようになった。 そして学園祭の打ち上げの後、寂しそうなお前を追いかけた」 そうだったんだ……。 「お前と付き合うことになってめちゃめちゃ嬉しかった。 すぐにフラれたけど」 「ごめん」 思わず私は謝った。 「いや、俺も未熟だったし。 俺自身がもっと成長して、あのリング以上の存在に なればいいんじゃないかって考えて、仕事も頑張った。 他の人と付き合ったりしたこともあったけど、 果穂の事がずっと忘れられなかった。 もしまたお前と付き合えて、俺がそのリングを超えられたら 本当のことを話そうって思ってた」 全ての謎が一気に解けて、頭の整理がつかなかったが、 確実にひとつわかった事があった。 「なんか、くらくらする…… 佑がお姉ちゃんの腎臓をもらった人で、 ピンキーリングの持ち主で……」 「驚かせてごめんな。 それで、俺、お前のリングの代わりになれそうかな?」 不安そうな目で私を見つめながら言った。 「リングの代わりって言うか…… 佑が…… ぶちおでリングでお姉ちゃんで…… そんなのもう何者も代わりはないでしょう?」 揺らぎのない口調で私は言った。 「もう、佑以上のものなんてこの世にない!!!!」 私は満面の笑顔で佑に抱きつき、 ありったけの愛を込めてキスをした。
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