第47話 <青い鳥の結末>

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第47話 <青い鳥の結末>

私は佑の部屋で生活するようになった。 実家に電話をして 「紹介したい人がいるの」 と言うと 「今度うちに連れていらっしゃい」 とママは言った。 実家のリビングのソファに私と佑が並んで座り、 対面のソファにはパパが座って 最近のニュースの話などをしていた。 ママが紅茶とケーキをトレーに乗せてテーブルに置き、 「専門学校からの知り合いなのよね? お話はいろいろ果穂から聞いてますよ」 と微笑んだ。 「ママ、実はひとつサプライズがあるの」 私はママを見上げて言った。 「何? サプライズって?」 ママは少し首をかしげ、笑顔のまま尋ねた。 私は真っ直ぐにママの目を見つめて、 ひとつひとつ噛みしめるように言葉を発した。 「佑ね、子供の時腎臓移植の手術を受けているの。 お姉ちゃんの隣の病室でずっとドナーを待っていてね。 お姉ちゃんが亡くなった時に、佑は移植手術を受けたんだ。 佑の中の腎臓はお姉ちゃんだよ」 「え?」 ママの表情が固まったのと同時に 「まさか…… そんな……」 ママの目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。 「美穂……」 そう言って佑の体を抱きしめた。 「パパ、果穂が…… 果穂が美穂を連れて来てくれた……」 そう言って泣きながら佑を抱きしめ続けた。 199b9a4c-7014-4830-9431-56763f17f7e7 パパも目をうるませてママを見つめていた。 佑はしばらく黙ってママを受け入れていた。 ひとしきりこれまでの思いを佑に注ぎ込んだ後、 「佑さん、ごめんなさいね」 と、落ち着きを取り戻したママは佑から体を離し、 私に言った。 「果穂、今まで辛い思いをさせてごめんね。 ママも立ち直らなきゃってずっと思っていたのよ。 でも、気がつくと美穂のことばかり話してしまって」 そう言って目を伏せた。 「だけどママは果穂に救われたのよ。 果穂がいてくれたからやってこれた。 果穂がいなかったらママは美穂の後を追っていたわ」 そう言って今度は私を抱きしめた。 そんな…… ママにとって私は救いだったの? 今度は私の目からポロポロと涙が落ちた。 私はずっと必要とされていたんだ。 これに気がつくまで、 随分と遠回りをしてきた気がした。 だけど、その紆余曲折があったおかげで いろんな事がわかった。 童話の「青い鳥」の最後。 思い出した、青い鳥は家にいたって結末だった。 家にいる青い鳥だって、 いろんな経験をして自分が削られるような思いをしないと 見えないものかもしれない。 削られて痛みを知って、自分や他人に優しくなれた時、 その周りは「幸せ」というやつで覆われているのだと思う。 帰りの電車の中で、佑はずっと私の手を握っていた。 これまでの時間とこれからの時間を慈しむかのように。 私も佑に応えるかのように肩にもたれかかり、 二人は電車に揺られ続けた。
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