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最終話 <三つのリング>
あれから二年の月日が流れ、私と佑は結婚し、
私の左手には、ピンキーリングと結婚指輪の二つが並んだ。
そして更に時は過ぎ、
「沖田主任! 来週作業の素材ってありますか?
もうデータを取り込んじゃおうかと思ってるんですけど」
と、チーフエディターの大桃さんの声が事務所に響いた。
「あぁ! あるよ!」
と、私はデスクから立ち上がろうとして思わずよろけた。
「主任! 気をつけて下さいよ!
もう主任だけの体じゃないんですから!」
「はいはい、そうだね。 気をつけます……」
私と佑はあれから小さな映像制作会社を立ち上げ、
今では10人ほどのスタッフを抱えるまでになった。
あの頃、自分には何もない、空っぽだと思っていたけど、
気がつけば私は沢山のものに囲まれている。
佑と、この会社と、そして再来月には新たな命も生まれる。
幸せは何かを揃えたら幸せになるのではなく、
自分の中にある幸せ…… というか
私はこれが愛というものなんじゃないかと思っているんだけど、
それに気づけた時に、
まわりに幸せが集まっているんじゃないかと思う。
でもそれに気がつけるようになるには、
やはり青い鳥探しの旅に出ないと駄目なのだろう。
ただ家で待っていても青い鳥は見つからない。
「幸せって捕まえるものじゃなく、気づくものだからさ」
いつかのリーダーの言っていた事、今ならわかる。
これまで様々な事があった。
中にはもう、どん底で立ち直れなくなる事もあった。
でも、振り返ればそれは全部全部必要で、
それらがあったから今ここに繋がっている。
そして何より、私が自分の中の愛に気づけた最大の要因は、
あの人が私に沢山の愛をくれたから。
「ただいまーー」
佑が玄関からリビングのソファに来て、
私のお腹に耳をあてた。
「おぉ! 今日も元気に動いてるな!」
そう言って嬉しそうに笑った。
「名前、『美果』にしようかなって思うんだ」
佑は私を見上げて言った。
「俺と、俺の中の美穂さんと、
果穂、全てはそこから始まって、
美しい果実が実るように生まれる子だから」
「いいね」
私は答え、佑は私の手を取った。
重ねた指には佑と私の結婚指輪、
そして小指には銀色に水色の石が入ったピンキーリングが光っていた。
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私は小指のピンキーリングをそっと抜き取り、
小さな化粧箱に納めた。
「お疲れ様です!
お願いしていたブーケ、出来てます?」
お得意先の結婚式場の笹塚さんが、
ショップのドアを開けて入ってきた。
「出来てますよ」
「あれ? 美果さん、その指輪いつもしてるやつですよね?
誰かにあげるんですか?」
「もうすぐ娘の佑果が結婚するのよ。
この指輪、うちの母が
『この奇跡の指輪のおかげで私は幸せな結婚ができた!』
っていつも言っていて、
私が結婚する時に譲り受けたの。
でもそのせいか、一度も結婚生活でトラブルはなかったわね。
娘にも良い結婚をしてもらいたいなって思って」
「素敵な話ーー」
「それじゃ、ブーケ今取りに行ってくるね」
そう言って私は、奥の冷蔵庫に向かった。
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