日曜日の朝と思い出すこと【直子 side】

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日曜日の朝と思い出すこと【直子 side】

 日曜日、娘の実和(みわ)は早くても九時を過ぎないと起きてこない。  十代は元気だな――直子(なおこ)は微苦笑しながら朝食の支度をしていると、案の定、背後で物音が聞こえた。ストレートボブの黒髪を爆発させて、実和がだらしなく食卓テーブルの椅子に座っている。眼鏡をかけてはいるが、その奥の目は半開きだ。  色々言いたくなる気持ちを横に置いて、 「もうすぐできるから、着替えてきて」  努めて明るく直子は声をかけた。  いつの頃からか、娘とあまり会話をしなくなった。自分が話しかけても答えが返ってこない。職場の同僚に『思春期だから』という魔法の言葉を教えてもらって、少しずつ諦めるようになっていった。  また、当時は母――実和にとっては祖母――が元気だったことも、実和との会話を諦めた原因の一つかもしれない。実和は母親の自分には冷たいが、祖母の(かおる)とは普通に話をしていたようで、それならばと、薫に実和とのコミュニケーションを任せてしまった部分もある。  ところが、その母が亡くなってしまった。  病を患っていたので、いずれは、という覚悟はあったが、正直、早すぎると思えてならない。 「できたよー」  テーブルには汁物と、卵と野菜のプレートが二人分並ぶ。ご飯は各自が食べるだけよそうシステムだ。 「実和、先にご飯よそう?」  振り返ると、ん、と短い返事と共に、茶碗としゃもじを持つ実和がいた。ちゃんとTシャツとハーフパンツに着替えている。  必要なことは答えてくれるんだよね。ふむ、と頷き、直子は仏飯器(ぶっぱんき)茶湯器(さゆき)を持って仏壇に向かい、毎朝の通りに手を合わせた。  およそひと月前、ちょっと不思議なことがあった。  直子が仕事から帰ってきてぼんやりしていると、母が後ろに立っている夢を見た。そこで母に対して引っかかっていたこと、いつか言いたいと溜めていたことを思い切り吐き出した。  それを境に、自分の気持ちが少し変わった気がする。  家族に苛々することも、恨みに思うこともあるが、一緒にいられる時間は大切にしたい。平日は難しいが日曜ならばと、朝食の時間を実和に合わせて遅らせてみた。  ダイニングに戻ると、実和が食べずに待っていた。  なんだか実和も少し態度が柔らかくなったような気がする――これは気のせいかもしれないけれど。  お待たせ、などと言いつつ、自分のご飯をよそって二人で食事を始めた。
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