日曜日の朝と思い出すこと【直子 side】

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 ふと、寝ぼけ眼の実和が時計に目をやったかと思うと、やば、と小さく言って焦りだした。 「なにかあるの?」  訊いてみると、実和は急いで咀嚼しながら渋面を作った。 「あー……、裏の神社の掃除。暑くなる前に行かないと」  もう既に夏の日差しが本領発揮しているだろうが、起きるのが遅い実和には、一刻も早く、ということなのだろう。 「裏の神社? ……あの、小さいところ? そんなことやってたの?」  目を丸くして直子が訊くと、実和は、まあね、と面倒くさそうに目をそらした。  じわじわと信じられなさが首をもたげる。実和は自分に必要なこと、利のあることにしか目を向けない印象で、とてもボランティアをやるように思えなかったし、信心深いとも思えなかった。 「なんで? いつからそんなことしてるの? どこかのバイト?」  矢継ぎ早の質問は、娘の眉をひそめさせた。 「バイトじゃない。そもそも、おばあちゃんがやってたんだから、別におかしくないでしょ。ごちそうさま」  流れるような返答を残して、実和は食器をシンクに持っていった。そのままさっさと部屋へ戻る。直子がゆっくりと食事をとっている間に、動きやすい服装に着替えて、洗面所で身支度をして出かけてしまった。  食べ終わり、箸を置いて直子は息を吐く。  自分はどうも人よりゆっくりしているようで、母にはよく『ぼんやりしている』と言われた。  ここは直子の実家で――結婚当時は余所に住んでいたのだが、夫が亡くなったのをきっかけに、実和と戻って女三人で暮らしていた。  裏に小さな稲荷神社があることは知っていたが、あまり縁がない。  母が亡くなった時に、親交のあった人たちから、母があの神社を毎日のように手入れしていたと初めて聞いて驚いた。  母は決断力があって面倒見が良く、周囲に頼りにされていた。そんな縁で神社の世話をしていたのだろうか。
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