日曜日の朝と思い出すこと【直子 side】

3/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 でもそれを実和が受け継ぐ……? なんだか似合わなくて、どうしても首を傾げずにはいられない。  私、あの神社、行ったことあったかな?  記憶を辿ると、とても古いものに行き当たった。  中学時代だったか、塾へ行く前に、小腹を満たすためのおにぎりをコンビニで買って、あそこで食べた気がする。  公園は、小学生が走り回って落ち着かないし、確かそういう日に限って家に父親がいる日だった。  父親――直子が十九の時に脳出血で亡くなった――は、町工場で働いていたが、景気が悪いとかで休む日があった。普段は寡黙なのだが、何かのきっかけで突然怒りだして大きな声を出す人だった。  直子が小さい時には、母が父を宥めたり、あとで直子が怖がらないようにフォローしてくれた。だが、直子が小学校高学年くらいで母はパートに行き始め、その頃から父の爆発から直子を守らなくなった――気がする。  それで、家で父と二人になりたくなくて、おにぎりを食べる場所を探して神社に行き着いた。  あの神社はほとんど人がいないから、とにかくほっとしたのを覚えている。確か鳥居の後ろあたりに、人が座れるくらいの石があったんだよね。なんだか『面白い』と思った出来事があった気がするのだが、なんだったか。  その代わりに、当時の気持ちが甦ってくる。どうして父の理不尽な怒りに晒されなきゃいけなのか。どうして母は守ってくれないのか。  自分も母親になったから、少しは想像できる。パートを始めたから余裕がなかったのかな。一人でいろいろやれるようになって、生意気も言うようになって、もう大丈夫と思ったのかな。 「もう少し……」  目を離さないでほしかったな。  なんとか大人にはなったけど、母の子育てについて満点とは言いたくない。  はた、と実和を思い出す。  もしかして私、母さんと同じことしてる?  でももう高校生だし……。いやいや、『思春期だから』は私が楽になる魔法の言葉だけど、目を離す言い訳になってない?  特に自分は、母に任せてきた分と、二人きりになって接し方が分からなくて放ってきた分と、かなり目を離している。  急に不安になってきた。  神社の掃除とか言って、全然違う所に行ってたり……。あ、でもタオル持って軍手履いてたな。じゃあ、神社で誰かと会ってるとか……? まさか、男の子かな……。悪い相手じゃないかしら……。  ぞわぞわと、黒々とした粒子が体の中を蝕むように這い回っている。  直子は立ち上がった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!