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でもそれを実和が受け継ぐ……? なんだか似合わなくて、どうしても首を傾げずにはいられない。
私、あの神社、行ったことあったかな?
記憶を辿ると、とても古いものに行き当たった。
中学時代だったか、塾へ行く前に、小腹を満たすためのおにぎりをコンビニで買って、あそこで食べた気がする。
公園は、小学生が走り回って落ち着かないし、確かそういう日に限って家に父親がいる日だった。
父親――直子が十九の時に脳出血で亡くなった――は、町工場で働いていたが、景気が悪いとかで休む日があった。普段は寡黙なのだが、何かのきっかけで突然怒りだして大きな声を出す人だった。
直子が小さい時には、母が父を宥めたり、あとで直子が怖がらないようにフォローしてくれた。だが、直子が小学校高学年くらいで母はパートに行き始め、その頃から父の爆発から直子を守らなくなった――気がする。
それで、家で父と二人になりたくなくて、おにぎりを食べる場所を探して神社に行き着いた。
あの神社はほとんど人がいないから、とにかくほっとしたのを覚えている。確か鳥居の後ろあたりに、人が座れるくらいの石があったんだよね。なんだか『面白い』と思った出来事があった気がするのだが、なんだったか。
その代わりに、当時の気持ちが甦ってくる。どうして父の理不尽な怒りに晒されなきゃいけなのか。どうして母は守ってくれないのか。
自分も母親になったから、少しは想像できる。パートを始めたから余裕がなかったのかな。一人でいろいろやれるようになって、生意気も言うようになって、もう大丈夫と思ったのかな。
「もう少し……」
目を離さないでほしかったな。
なんとか大人にはなったけど、母の子育てについて満点とは言いたくない。
はた、と実和を思い出す。
もしかして私、母さんと同じことしてる?
でももう高校生だし……。いやいや、『思春期だから』は私が楽になる魔法の言葉だけど、目を離す言い訳になってない?
特に自分は、母に任せてきた分と、二人きりになって接し方が分からなくて放ってきた分と、かなり目を離している。
急に不安になってきた。
神社の掃除とか言って、全然違う所に行ってたり……。あ、でもタオル持って軍手履いてたな。じゃあ、神社で誰かと会ってるとか……? まさか、男の子かな……。悪い相手じゃないかしら……。
ぞわぞわと、黒々とした粒子が体の中を蝕むように這い回っている。
直子は立ち上がった。
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