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娘と話せると嬉しくなっちゃうこと【直子 side】
直子が神社の側まで来た時、実和の話し声が聞こえた。
やっぱり誰かと一緒なんだ。ドキドキしながら足音を忍ばせて、石段の下、鳥居の影からそっと覗いてみると、実和しか見えなかった。
気付かれないように、首を伸ばしたりしてみても、他の人影が見えない。
まさか独り言? こんなに普通のトーンで?
口実になるかと思って買ってきたペットボトルの麦茶を、思わずぎゅうと握りしめていると、
「お母さんが?」
実和の大きな声に、心臓がどんと破裂したかと思った。足がもつれて、考えずに履いてきた突っかけが地面を滑り、
「わっ」
咄嗟に、麦茶だけは落としちゃいけない、と腕を天高く突き上げた、妙な格好で尻餅をついた。
「あらら……」
お尻もそれほど痛くないし、足もひねっていない。体の無事を確認しながら服を払って立ち上がる。
ちょっと足の小指が痛いかな、などと思いつつ神社に目を向けると、実和が怖い顔をしてこっちを見ていた。
「あ、実和」
照れ笑いを浮かべつつ、石段に足を掛け、鳥居の前で一礼して通った。
「なにしてんの?」
冷たくも聞こえる声だが、これは平常時のものだと今は分かる。
「なにって、様子見に来たの。これ、麦茶」
ペットボトルを差し出すと、あーうん、と微妙な返事で実和は受け取った。
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