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「もう終わった?」
「あー、もう少しかな」
実和は箒を手にして、砂利を均し始めた。
「本当に掃除やってるんだー。すごいじゃない」
「なんだと思ってたの?」
「別になんだとかないけど……。でもなんかさっき、誰かと喋ってなかった?」
「へ?」
実和の声が一段高くなった。
「だ、誰と話すの? 誰もいないじゃん」
「うーん、そうなんだけど。でも本当に喋ってる声がしてたから」
実和が拝殿の方を一瞥した。
「ひ、独り言!」
「独り言?」
「そう! 一人でやってるとテンション下がるから。めっちゃ暑いしね」
やたらと口が回る実和に首を傾げたが、誰もいないと思ってやっていたことを親にこれ以上突っ込まれるのは嫌だろう。
「そっか」
うんうん、と頷いて、帽子のつばを少し持ち上げて見回す。
「実和が一人でやってるの?」
「掃除? うん、そう」
「もしかして、おばあちゃんに頼まれた?」
「え、なんで?」
実和は手を止めずに尋ね返した。
「なんでって……なんとなく。おばあちゃんの帽子使ってるし」
ボランティアにも掃除にも興味がない実和だが、祖母の薫に頼まれたのなら合点はいく。
「まあ、そういう感じ?」
やけに早口の実和を見て、そっかと微笑する。
「あなた、おばあちゃんと仲良かったしね」
――今のは完全に嫉妬だった。直子の身の内で幼い声が囁く。どうして私じゃなかったの、母さん。
娘の自分が泣きわめく。
でも――。十数年、共に生きてきた母親の自分が言う。
実和と母さんが仲良く過ごしてくれたから、母さんを架け橋にして、今、実和と会話ができている。それって悪くないんじゃない?
「そうかな。一緒にいた時間は長かったけど」
実和が箒を持ち上げて鳥居近くに歩いてくる。
直子は内面を悟られないように、もう一度神社を見回した。
「相変わらず狭いね」
呟くと、実和が顔を上げた。
「お母さん、ここ来たことあるの?」
「何回かね。あ、この石、まだあるんだ」
さきほど実和が座っていた石を示し、楽しそうに直子は歩み寄る。石と周りの景色を見ていると、昔の記憶がよみがえってきて、自然と笑みがこぼれていた。
それを実和が不思議そうに見る。
「なに?」
「ん? ここでね。面白いことあったなーって思い出した」
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