宿場町

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宿場町

 しばらく歩くと町が見えてきた。  「やっと休める」  安堵した顔をする孔士。  「孔士は軟弱者だな」  「だから僕は美琴と違って繊細なの」  「なにが繊細だ。そんなことで旅が続けられるのか?」  「うるさいなぁ。疲れているから説教は後にしてくれよ」  「貴様は」  「なっ、なんだよ」  多少は和解をしたがそれでもすぐに口喧嘩が始める。  「やめろ二人とも。仲良くしろとは言わないが少しは喧嘩を減らしてくれ」  こうした言い合いが頻繁におきるので禅宗の心労がかさんでいく。  「だっ、だって美琴がうるさいから」  「孔士がだらしないから」  二人はまた睨みあう。  「だ・か・ら・喧嘩をするなぁ!!」  「でもさぁ少し前まで敵同士だった奴と仲良くなんてできるわけないじゃん。しかも僕は殺されかけたわけだし」  美琴も同意しているのか何度も頷いている。  こんな時だけ同調する二人がなんだか忌々しい禅宗であった。  「お前らなぁ・・・」  怒りで顔を引きつらせる。  「もういい。とにかく今日はあの町に泊まるぞ」  「わかったわ」    二人の相手にひどく疲れた禅宗はさっさと町へと歩き出した。  長旅のせいで疲れもたまっているのかもしれない。    「けっこう賑わっているね」  「ああそうだな。ここら辺は戦の影響がそこまで酷くなかったのだろう」  人々が行き交いそこそこ賑わう町を見わたす。久しぶりに活気のある道を歩いたので気持ちが高ぶってしまう。  禅宗と孔士は宿を捜す。  「迷子になるなよ美琴・・・って?」  振り返るが美琴の姿が消えていた。    「おい孔士。美琴はどこだ?」  「えっ・・・さっきまで後ろを歩いていたけど」  二人は辺りを見わたすが    「いないね」  「いないな」  二人は見つめ合い  「「はぁっ・・・」」  深いため息をつく。  「とりあえず俺は美琴を捜すから孔士は宿を見つけておいてくれ」  「了解」  「後でここに集合だ。それと・・・安宿でいいからな!!」  最後の言葉だけやたらと強く言う禅宗。  「はい・・・」  迫力におされて素直に了承する孔士。  内心では贅沢な宿でのんびりしようと思っていたのだが見透かされていたようだ。  禅宗は宿場町を走りながら美琴を捜す。  「ったく、どこにいったんだ」  嫌な予感しかしないので一刻も早く見つけ出したい。  しばらくするとなにやら人だかり見えた。  「はぁ・・・嫌な予感がするなぁ」  人だかりをかき分けて中心へと進む。  「このくそ女ぁ、ぶっ殺すぞ!!」  少女と数人の子供がガラの悪い男たちに取り囲まれている。  「お前達はこんな小さい子達をいじめるなんて人間として恥ずかしくないのか」    聞き覚えのある声がする。  「うるせぇ!! こんな薄汚い乞食のガキがどうなろうとしったことか」  「貴様、恥を知れ!!」    町のチンピラと言い合いをしている美琴。  「あのじゃじゃ馬娘が」  嫌な予感が的中し頭を抱える。  「ほう、よく見たらなかなか綺麗な顔をしている」  男達は美琴の手を掴み無理矢理どこかへと連れていこうとする。  「この手を離せ」  だがそもそもチンピラがどうこうできる相手ではない。    「ぐぁっ・・・」  鞘が男の腹部にめり込むと呼吸困難を起こして倒れ込んだ。  「てめぇやってくれたなぁ。舐めやがって!! この女をやっちまえぇぇぇ」  数人の男達が一斉に襲いかかるが  「ぐぁっ」  「ぎぁぁぁ」  「げほっ」  美琴は刀を抜くこともなく鞘のみで男達を痛めつける。  「ひぃぃぃ」  最後の一人が怯えながら近くにいた子供を掴み刃物を突きつける。  「来るなぁぁっ・・・!! このガキがどうなってもいいのかぁ?」  「くっ卑怯な」  子供は恐怖で固まっていた。    「お前は・・・」  美琴は男の後方を見ると警戒を解いた。  「へへへ大人しくしてい・・・」  男は逃げ出そうとするが突然白目をむいて倒れる。  「ったく、騒ぎを起こすのもほどほどにしろよ」  禅宗の手刀により男は気絶させられた。  「お前たち大丈夫か?」  助けられた子供達がうなずく。  「今のうちだ速く逃げろ」  「お姉ちゃんありがとう!!」  一斉に走り出し町の喧騒へと消えていった。  美琴は悲しそうに見送る。    「美琴、怪我はないか?」  「私は大丈夫だ。平和な時代になったと聞いていたがどうなっているのだ?」  「どんな世の中でもああいう輩はいるもんだ。それに本当の意味での平定はこれからだからな。おいそれと物事は進まないよ」  戦争は終わったがこれから本格的な法の整備や治安の安定などがはじまる。  本当の意味での太平の世が来るのはもう少し先の話でった。  「そんなものか?」  「ああ、こればかりは焦ってもしょうがないよ。今は家康公を信じるしかない」  「・・・わかった」  美琴の心中は複雑であった。  太平の世を作るとゆう名目で大勢の命を奪ってきた。時代が変わろうが血にまみれた過去が消えるわけではない。  もしかしたら先ほどの子供達の親を殺したのは自分かもしれないと考えるといても立ってもいられなかった。  罪悪感に潰されそうな美琴であった。  「美琴?」  「ああ・・・すまない。考え事をした」  「あんまり無理するなよ」  「うん」  少なからず禅宗の何気ない言葉に救われていた。  「まぁ、無事でよかった。孔士が宿をとっているはずだから行こう」  「わかった」  二人は孔士と別れた場所へと向かう。  「お前は何をしている」  孔士と無事に合流できたが  「はは・・・思ったより早かったね。お腹が減ったから腹ごしらえをしています」    二人と合流する前に一人だけで食事をしていた孔士。  まだこれだけならいいがその量に禅宗は表情引きつらせる。  「お前は路銀を使い果たすつもりか?」  「二人とも遅いからつい・・・」  「ついじゃないこのバカ!!」  「そんなに怒鳴らないでよ」  「お前の大食いのせいでどれだけ迷惑していると思っているんだ」  孔士の食費は旅の財政をかなり圧迫していた。おかげで禅宗は常に旅の資金繰りに苦労していた。  「まぁまぁそれは僕と禅との仲という事で」  「くうっっっ・・・」  「あっ、あんまり怒ると血圧が上がるよ」  怒りで般若のような顔をする禅宗。  二人のやり取りを黙って見ていた美琴は  「ぷっ」  思わず笑い出してしまう。  「はははははは」  禅宗と孔士は呆気にとられる。  「はははははぁ・・・すまない」  二人を見ていたら悩んで苦しむ事がアホらしくなっていた。  「禅宗そう怒るな。こうなったのも私の責任だからどうか許してやって欲しい」  美琴は頭を下げる。  「・・・はぁっ」  禅宗は頭に手をやり深いため息をついた。  「わかった。とりあえず俺たちもご飯にしよう」  椅子に座り注文をする。  「・・・ありがとう」  微笑みながら小さな声でつぶやく。  隣では孔士がまたおかわりを要求したので言い合いをしていた。  いつもと変わらない騒がしい食事の時間であった。  
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