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問答
翌日、久しぶりに布団で睡眠をとりすこぶる体調がいい禅宗たち。
長崎へと向かう為に森の中を軽快に歩いていた。
「なんか久しぶりにぐっすり眠れた気がする」
孔士は大きく背伸びをした。
「まったくだ。けっこう疲れがたまっていたのだな」
「私も今日は体が軽い気がする」
禅宗と美琴は体をほぐしながら歩く。
「そういえば昨日の騒ぎは何があったの?」
孔士が何気なしにたずねる。
「やくざ風の男達が小さい子供達を泣かしていたのを止めたのだ」
「もしかして浮浪児じゃなかった?」
「確かに着物はボロボロだった」
「ああ・・・そういうことね」
「どういうことだ?」
「美琴はこれから昨日みたいな子供達を沢山見ることになる」
「なんだと」
「よく考えろよ。戦国時代が終わってまだ一年だ。親や住む場所を失った人たちがあふれかえっている」
孔士は下を向いて悲しそうに続ける。
「大人だって生きるのに必死だ。いちいち昨日みたいな事にかまっていたらきりがないよ」
「なら孔士は見て見ぬふりをしろと言うのか!!」
「そうとらえて貰ってもかまわない。でも僕たちには旅の目的があり人助けが目的ではないことはわかるよね」
「しかし・・・」
禅宗が割り込む。
「確かに孔士の言っていることは正しい。正直いうと昨日のような者たちは沢山いるしいちいち関わっているときりがない」
「禅宗・・・お前」
美琴は落胆の表情をする。
「だがな俺たちはある意味、戦争の当事者でもあるから見て見ぬふりはあまりにも無責任だ。だからな美琴」
真っ直ぐに美琴を見つめる。
「お前の思うとおりにしろ」
「えっ・・・?」
意外な言葉に驚く。
「答えは一つではないよ。俺も孔士も絶対に正しい答えを持っているわけではない。だから・・・俺たちに美琴の答えを見せてくれ」
「俺は全力でフォローをする」
肩に手をやり優しく微笑む。
美琴は顔を赤くしてうつむいた。
「ねぇ」
「なんだよ。孔士」
孔士は疲れたのか少し離れた所で座り二人を見ていた。
「あまり二人の世界を作られると疎外感が半端ないから止めてくれる」
「あのなぁ、お前が言い出したんだろうが」
「僕は一応、旅のことを考えて言っただけだし。でも禅が美琴の好きにさせるなら僕はそれでいいよ」
孔士が素直に従うと言い驚く美琴。
「以外ね。孔士が素直に受け入れるなんて」
「こうなった禅は頑固だからね」
「そうなのか?」
「たとえ上官が相手でもこうと決めたら引かないよ。なんせ黒田如水さま相手でも引かなかったらしいからね」
「冷酷な大軍師に・・・それは凄いな」
「まったく迷惑な話だよ」
迷惑そうに語るがどこか誇らしげである。
禅宗は敵である孔士を助けようとして一悶着あったのだ。
かなりの危ない状況であったがこれまでの功績と仲間たちの進言でなんとか乗りきれたのだった。
「でもそれに救われたこともあるから何も言えない」
「まったくお前達はこの間の件といい本当に変わっているな」
呆れながらも感心する。
「美琴だけには言われたくないのだけど」
「それに関しては俺も同意すがな。まぁ今回の件みたいな事はこれからも起きるだろうし美琴も暴走するだろうが俺と孔士でなんとか後始末をするでいいか?」
「しょうがないね」
頬を膨らませる美琴。
「言い回しが気になるが・・・わかった」
孔士と美琴は腑に落ちないものを感じながらもしぶしぶ納得する。
「これで一件落着だな!!先を急ごう」
禅宗により無理矢理にまとめられる。
一行はそれぞれ思い思いに歩みを進めるのであった。
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