守るべきもの

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俺の願いが叶ったのか、母親は無事に退院をし家に戻ってきた。 母親と俺と妹……いつもの生活が戻って来た。 何にも変え難い俺の幸せ。 やっと願いが叶った。 ────数日後。 家に尾田がやってきた。 「こんちわー黒田さん。残りの9000万円用意出来てますよねー?」 借金……今は手元に100万円しかない。 足りない事もタダでは済まされない事も分かってるけど。 「尾田さん……」 今回が最後──── 「今日が最後ですよー。ちゃーんと返して貰いましょうか」 「……すみません。これしかないです……」 「あーちょっと数えますねー」 「……」 「全っ然足りないじゃぁないっすか。ま、予想通りだけどよぉ」 俺は守るべきものは守った。 あとはどうでもいいや……。 焦って悪足掻きしても無駄なんだ。 「うんじゃぁ、一緒に行きますか。そうそう黒田さん…俺の右手と左手、どっちを選びます?」 〇〇生命保険と書かれた紙を左右に行き来させ、尾田は自分の手を背中に隠した。 俺の命か奴隷かって……あぁ、それで気前よく貸してくれたのか。 どっちを選んでも俺の人生は終わりだろ。 「最後の情けですか?じゃあ、右で……」 ニヤリと尾田は笑った。 家を尾田と共に出た。 もう此処に戻ってくる事はない。 でも、母親と妹を守る事が出来た……ただ、それだけでも俺は幸せだったと言える。 「後は頼んだぞ……」妹に告げるように振り返って言うと 「陽ちゃんっ!!」 努力すれば報われるなんて、誰が言ったんだか……。 何も知らない母親が不安げに俺を見ていて……その姿に俺は一筋の涙を流した──── ~完~
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