「北国書」

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「北国書」

 レジから金がなくなったんで「北国書」を書かせられたんだ。  「報告書」じゃなくて「北国書」ですか?  そうだ。金が消えると、北国の生態について「北国書」を書かなければいけないんだ。  それって、どんな内容なんですか?  そうだな、ひとことでいうと、北国の気候や、動物の生育や、植物の開花状況や、今度やるお祭りの予定や、給食の献立や、家庭環境調査とか、そんなところかな。  つまり北国で行われていることなら、なんでもいいんですね。  いや、なんでもいいわけじゃない。北国のレジでなぜお金が消えたか、ということだけは絶対に追及してはだめだ。  どうしてですか?  それは国家機密だからだ。それが発覚してしまうと、これまで信じていたことが、すべて覆されてしまい、何のためにレジでお金の管理をしているか、わからなくなってしまうからな。  それってつまり、世の中には知らない方が幸せなこともある、ということでしょうか?  いや、そういうわけじゃないがね。なんだね、君、話しにくいな。  あ、あそこ、レジの下に100円落ちてますよ、なくなったお金ってあれじゃないですか?  あれ、ほんとだ。 「北国書」はもう提出したんですか?  まだだけど、あれを書くのに丸二日もかかったんだ。せっかくの労力が水の泡になってしまった。  それなら、あの100円でジュースでも買って二人で飲みますか?それなら「北国書」も無駄にならずに済むでしょう。  いい案だな。ぜひ、そうしよう。  それなら今からぼく、買ってきますよ。何のジュースがいいですか?  
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