プロローグ

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新黎明暦(しんれいめいれき)1700年/1月/1日】 お腹の上に圧力を感じて少女は目覚めた。 自分のお腹の上に目をやると、欠伸をしている黒い猫が見えた。私が起きたことに気がつくと、猫ーマクロはベッドから降りて部屋を出て行ってしまった。 眠い目をこすりながらベッドから降りる。 また、変化がない一日を過ごすのかと思うと少し虚しくなる。 変化がない毎日があるのには単純な理由がある。 現在の東京は、幾度にもなる世界大戦と物資の枯渇で荒廃している。 日本の産業は世界大戦の際に軍需企業であったCyclosynapse(サイクロシナプス)社の一社独占状態である。 東京は15区に分けられており、1区は政府の主要機関があり、2区から10区まではサイクロシナプスが統治している。11区から15区まではスラム地区とされており、私が住んでいるのは14区である。 有機物が枯渇し、現在の日本ではサイクロシナプス社のみが有機物を大々的に生産している。そのため、食品や衣類なんかはほとんどがサイクロシナプス社の製品である。 もっとも、貧民街で暮らしている私には新品を着る機会なんてないが。 サキに勧められて、生活録を書くことにした。言い方は物々しいが、用は日記である。ただ、この世界では紙がとても貴重で、私のような階級が低い人間が使えるわけもないので、PDA端末に記入を進める。 音声と映像、文字データを同時に保存出来るPDA端末は今では情報を残すストレージとして重宝されている。生活録に何を記せばいいのか分からないので、とりあえず私の身の上話をすることにする。 私の名前はレイ。14歳で性別は女。 苗字はない。現在苗字を持っている人は国家機関に所属する人くらいだろうか。大昔はみんなが苗字を持っていたらしい。 私が自身のことについて分かっていることは、レイという名前と、自分が捨て子であるということだ。 …そうだ。サキのことも書いておこう。 サキは私の義母にあたる人だ。捨てられていた幼い私を拾って育ててくれた。サキはとても面倒見が良く、私が幼かったころ寂しくならないように捨て猫を拾ってきてくれた。 その黒猫とともに私は育ってきた。黒猫の名はマクロという。真っ黒だから、マクロ。拾ってきた日にサキが付けた。彼女は親切心にあふれたとても良い女性だ。
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