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「ねえ、覚えてる?」
普段なら寝ている深夜。
なぜだか眠れなかった俺は近所のコンビニで懐かしい顔に出会った。
二十年ぶりくらいだろうか。
中学生の頃と比べると肉が付いたが笑った顔は変わらない、あの頃のダイスケが居た。
「えっと……」
「あ、わかんねぇ? 鳩川、鳩川ダイスケ」
「……どうも」
「なんだそれ、いや~ひっさしぶりだよな!」
困惑した。
これまでにも何人か同級生には会った。
そして第一声は必ずと言っていいほどに『変わったね』だった。
なのにダイスケは己のペースで話し始めている。
「……だよな!。あそこのラーメンマジ旨!
あ、そういえば、あれ覚えてる? あの……あいつの、えっとスケルトンだっけ?」
「……ああ。それが?」
「死んだってマジ? ちぃっと前に事故ったって聞いたんだけど」
「いや……」
「あ、知らね? やっぱガセかぁ~。トシの野郎に騙されたわ!」
そんな話が続き、三十分くらいダイスケの話を聞いていた。
コンビニからも離れて中学の頃によく来た公園に居る。
思いがけず長居してしまった。
だがこれ以上付き合う義理も無い。
「あのさ、カトウメイヤって覚えてる?」
ひとつだけ聞きたいと思っていた質問をぶつけた。
「誰それ?」
ダイスケが答えたその瞬間、見慣れた拳がダイスケの鼻を襲っていた。
「な、なんだよ! いきなり!」
「いや、覚えてないとか有り得ないし」
「はぁ? イッテ……男か女かもわからねぇし誰だよ、そいつは!」
「覚えてないなら覚えさせてやるよ」
「マジお前ナニ言って……」
……ねえ、覚えてね?
殴られたら痛いんだよ。
人の間接は一方にしか動かないし、
トイレの水は汚いんだ。
そう、ココのトイレは特に管理が緩い。
覚えてるんじゃない……
忘れられないんだ。
脳に焼き付いたあの笑顔は、いつだって不意に現れて俺を苦しめたんだ。
「な、なあ、悪い事言ったなら謝る!
謝るからやめてくれ!」
やっと聞きたかった台詞をダイスケが言ってくれた。
やっぱり公衆トイレに顔は入れたくないよな。
「……二言は?」
「は?」
「言った言葉に二言は無いか?」
「ああ! 嘘じゃない。俺は約束を守る!」
「……わかった」
つい笑みがこぼれた。
携帯をポケットから取り出し操作する。
そして、これまでに何度も聞いた音声を再生する。
『…………
「……絶対、いつかやり返してやる」
「「「「ギャハハハ」」」
「はぁ? やれるならやってみろよっ
いつだって受けてやる……ぜっ」
「ヴッ」…………』
「……エ?」
保存しておいて良かった。
機種変更するたびに面倒でもコピーをしてきた甲斐があった。
自分を奮い立たせる為に必要だった。
「エ?……お前」
「感謝してるよ、ダイスケ」
やっと……やっとおん返しが出来る。
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