ハッピーハッピーアニバーサリー

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「ゆーくん、マイの話ちゃんと聞いてる?」  コテでゆるく巻いた長い髪をツインテールにし、小首をかしげるマイははじめて会った時から寸分も変わらず、とても可愛い。  こんな美少女とつきあえるなんて俺ってツイてる! 誘ってくれてありがとな! と、チャラ男に自慢してから早半年。  俺はあの時彼女がぼっちでいた理由含め、平々凡々な自分が何故彼女とつきあえたかを理解するに至り、うんざりしていた。 「突然ですまないけど……俺と別れてくれ」  鳩が豆鉄砲をくらったような顔になったマイから目をそらす。 「頼む、お願いだ。今日でマイの彼氏をやめさせて欲しい」  とある悪癖ひとつ以外は最高な相手と、その悪癖ひとつを理由に、つきあいを断念せざるを得ない事態になることもある。  ――ということを、初カノで俺に学ばさせるとは……神様って無情だ。 「な、何で? どうして急に、別れたいだなんて、そんな……。マイ、気づかないうちにゆーくんに悪いことしたのかな?」  彼女はうろたえ、悲しげに顔を歪める。  告げればこうなるだろうと予想はしていたが、良心が痛んだ。けれど、撤回はしない。  何故なら―――― 「もう嫌なんだよ! 多すぎる『記念日(アニバーサリー)』につきあうのが!」  我慢という壁を一ヶ所でも壊してしまったなら、限界までためていた文句が壊した箇所からすごい勢いで吹き出し、止められなかった。 「誕生日やクリスマス、正月といった世間的にもデカいイベントは、祝うことに異議はない。でも、『俺がマイに告白した日』『はじめてデートした日』『はじめて手をつないだ日』『初キスした日』等々――こういう細々した記念は、年一回でよくない?! 毎月祝う必要なくね?!」  少し甘えん坊だが優しい性格で美少女なマイが、文化祭の時にひとりぼっちだった理由がたぶんこれだ。  おそらく彼女は、友人に対しても元カレたちに対しても、異様なほどに記念日を作り、祝うことを強制してきたんじゃないかと思う。この半年間、俺にしてきたように。 「それ以外にも、『五十日目記念日』や『百日目記念日』まで数えて、祝わせられるのは耐えられない!」  ゴミ出しの日ペースの記念日など、もはや記念日ではないと思うし、祝う価値もないと俺は思う。
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