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「細々した記念日を毎日のように祝いたいマイと、それを負担に思う俺じゃ、価値観が違いすぎるんだよ……」
記念日デートのたびにおごらされるから、俺の財布は彼女とつきあいだして以降、常に軽い。
頑張って稼いだバイト代が、ハイスピードで消えていくのがつらい。
「だからゴメン。今日で別れて下さい。お願いします」
俺はテーブルに額がつくぎりぎりまで頭を下げた。
ややしばらくの沈黙の後に、震える声で「分かった」という返事が来たので、俺はツバを飲み込んでからそっと顔を上げた。
「マイ、ゆーくんのことが好きだから、ゆーくんの願いを叶えてあげたい。だから……いいよ」
薄紫色のハンカチで目元を押さえるマイの姿は、俺に罪悪感を抱かせたが、それは前言を撤回させるまでには及ばなかった。
俺は最後に「ありがとう。本当にごめん」と言い、そのまま席を立つ――つもりだった。
「今日でお別れしてあげるけど、明日からまた、恋人になってね!」
耳を疑う言葉に椅子から立ち上がれず、かわりに「は?」と声がもれた。
「ゆーくんのお願いを叶えてあげる。だからマイのお願いも叶えて? そしたら、別れてあげる」
斜め下へカッ飛んだ発言に、俺はしばし絶句した後、わななく唇を無理矢理動かして言い返した。
「わ、別れて、またつきあうならっ、別れる意味がないじゃないかっ……!」
「そんなことはないわ。マイとゆーくんとの記念日がまたひとつ――ううん、ふたつ増えるんだもん!」
先ほどまでにじませていた涙はどこへやら、彼女は花が咲くように笑んだ。
「記念日……」
「そう! ふたりにとって悲しい日と、愛を再確認してリスタートする日が増えるの!」
話が通じなさすぎて、目の前にいるこの女は宇宙人なのでは? と、軽くめまいがした。
「……むり」
「ん?」
「無理だ! 無理無理無理無理! もう無理!」
「ゆーくん、急にどうしたの? 何言ってるの? 変だし、怖いよ?」
「それはお前だ! このアニバーサリー女ッ!」
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