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「お前は可愛いから俺と別れたって、すぐに次が見つかるって!」
「やだっ! マイはゆーくんがいいの! マイのことを可愛いと思うなら、別れないでッ!」
マイがかんしゃくを爆発させたような金切り声で叫ぶ。
俺はこんな彼女を見るのははじめてで、軽い恐怖とともにうろたえ、次にとる行動を迷う。
ここから逃げるには、出口をふさぐマイを倒すか、叱られること前提でどれかのビルへ逃げ込むかの二択だ。
彼女を倒すということは、暴力をふるうということ。……地雷女といえど、女子相手に暴力はよくない。もし怪我を負わせてしまったら、後々不利になるのは俺の方だろうし。
(となると、ビルへ逃げ込むしかないか。ビルの人に迷惑をかけることになるけど、それしかないもんなぁ)
そう結論を出した時、ジリジリと距離を詰めてきていた彼女がぴたりと止まり、俺から視線を外すと少し上を向き、かすれた声で言った。
「はるぽん?」
彼女の呼びかけに応えるように、俺の後ろから「うわあっ!」と、悲鳴じみた男の叫び声がした。
驚いて振り返れば、ラフな格好をした見知らぬ男――大学生くらいだろうか――が、今まさに背後に建つビルから出てこようとしていた体勢で、固まっていた。
彼の目はマイへ向けられており、そして明らかにおびえていた。
「はるぽん……今日はマイとはじめて遊園地に行った日だよぉ!」
「いやだぁぁぁぁ!!」
絶叫しながらビル内へ駆け戻る男を、俺の横を猫のようにすり抜けたマイが追う。
そして、展開についていけなかった俺だけが、どん詰まりの路地に残された。
「元カレ、か?」
おそらく当たっている気がする推測をつぶやいた後、身震いした。
(怖ッ! マジでヤバイよ、あの女! 元カレの記念日までいまだに管理して覚えてんの?!)
元カレはどうやって『元カレ』になれたのか、あれは自分の未来の姿なのか――などと疑問や不安が次々にわいてくるが、それについて考えるのは後だ。
(とりあえず今は、『はるぽん』が彼女をひきつけてくれている間に逃げなきゃ!)
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