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マイのせいで記念日というものが嫌いになってしまった俺だが、せっかく祝ってくれるという友人たちの申し出を断るのは、気が引けた。
ちなみに彼女と破局したことは、まだ誰にも話していない。
つきあいはじめのころに散々自慢しまくったので、ダメになりました……とは言い出しがたく、ずるずると今日まできてしまっていた。
「マジか! ありがと!」
本当のことを言えないまま、俺はチャラ男とカラオケ店へ向かった。
「六号室だって」
先に部屋で待っている友人たちと連絡を取り合いながら、チャラ男先導で店の狭い通路を進み、俺が誕生日会会場の扉を開く。
途端、パパパパン! と、いくつもの破裂音が俺を襲った。
驚いたがすぐにクラッカーの音だと分かって、何だかそれだけで楽しくなってしまったオレは、声を出して笑った。
「あはは! うっわ、ビビったぁー! ベタな驚かせ方やめろよなー!」
「こういうのはベタだからいいんだよ! 十七歳おめー!」
「誕生日、明日だけどな!」
「一日くらいの誤差、気にすんなよ。とりま、おめでとー!」
そのままややしばらくギャーギャー騒いでいたのだが、チャラ男が「オイお前ら!」と思い出したように言うと、急にぴたっと友人全員静かになった。
「どうしたんだ?」と首をかしげる俺に対し、ニヤつくみんなは黙ったまま、部屋の奥へ顔を向けた。
「バースデー・イブ、おめでとう!」
男だらけなはずのこの場にふさわしくない、鈴を転がすような声がした。
「今日はみんなでお祝いしようね、ゆーくん」
ソファーの影から立ち上がり、俺のカノジョづらして微笑む女は、間違いなくマイだった。
「そーそー! 今日はみんなで祝おうぜ!」
「サプライズ大成功ー!」
「明日ふたりで祝うのに、これってサプライズになんの?」
「じゃ、カノジョいないお前へのサプライズってことで!」
「マイちゃんはあいつのカノジョなんだから、それはヤベーだろ?!」
友人たちはバカ騒ぎしながら、呆然としている俺の腕を引いたり肩を押したりして、俺をマイの隣へ強引に座らせた。
(あきらめてくれてたんじゃなかったのか? 俺は元カレになれたんじゃなかったのか?)
疑問や、色々な種類の負の感情が腹の中でぐるぐると回ってまざり、吐き気がして、最終的に泣きたくなった。
これでまたひとつ記念日が増えてしまった、どうしよう……と。
* 終 *
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