2人が本棚に入れています
本棚に追加
ハッピーハッピーアニバーサリー
「今日はマイとゆーくんの初デートの、ハーフアニバーサリーだよっ! ちゃんと覚えてた?」
高二になってからまだ日も浅い、四月半ばの月曜日の夕方。
通う学校は違うが、同い年の恋人同士であるマイと俺は、小洒落たカフェの、西日が差し込む窓際のテーブル席に座っていた。
マイの前にはフルーツパフェ、俺の前にはこの店で一番安いアメリカンコーヒーのカップがある。
「……覚えてるよ」
覚えているも何も、数日前から今日が記念日であることをマイから言われ続け、だからということでカフェデートの約束をとりつけられて、今会っているのだが。
「ハーフアニバーサリーにこうしてデートすることができたから、ゆーくんとの素敵な記念日をまたひとつ増やせて、マイ嬉しい!」
「そっか」
スプーンを持ちニコニコしているマイは、俺の反応が悪いことにまったく気がついていない。
学校が違う彼女との出会いは、去年の十月までさかのぼる。
友人のチャラ男に「ナンパしに行こうぜ!」と誘われ、恋人が欲しかった俺はワンチャン狙いで、彼について女子高の文化祭へ行った。
「普段は出入りに厳しい学校なんだけど、文化祭の日だけは外部の人間も自由に入れんだ」
はじめて入った女子高内は、様々な年代の男女であふれ、喧騒と活気に満ちていた。
文字通りのお祭り騒ぎの中で俺はチャラ男とはぐれ、裏庭らしき場所へ迷いこんだ。
あまり手入れが行き届いていない様子のそこは、不安になるほど静かでひとけがなかった。
繁殖しすぎた藻で底が見えない小さな池に、ベンチがふたつ。木は数本はえていたが花壇はなく、文化祭のポスターや飾りなどもなかった。言ってしまえば、寂しい場所だった。
そんな場所だったからこそ、俺はマイを見つけられたし、声をかけることができたのだと思う。
彼女は池の近くに設置された古ぼけたベンチに、ぽつんとひとりで座っていた。
濃紺のセーラー服の上に薄ピンクのカーディガンをはおり、手に持ったスケジュール帳を見つめる彼女はとても可憐で、俺はひと目で恋に落ちた。
ハートに金の矢が刺さった俺は、普段からは考えられないほどの行動力を発揮し、見知らぬ美少女をナンパした。
更に数時間後に勇気をふりしぼって告白をしたところ、見事彼女の恋人になることができたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!