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第一節 今を生きない
いつも心が走っている。僕は、焦って必死に自転車を漕ぐ。いつもいつも、何かに責め立てられるように……。
以前は文字通り走って学校から帰っていたが、4月に高校に入学してからは、自転車通学となった。疾走と言っていいほどの感覚の下校道。急いで帰ったところで、家は安住の地ではないのに。
それでも学校よりは幾分ましかもしれない。そうやって楽しくない毎日をやり過ごしてきた。漫然とした生活はつまらなく、取り立てて得意なこともない。非日常の出来事が起こらないかと期待していたが何も起こらず、退屈な現実は、生きている無意味さを考えさせられる。
それは高校に入っても何も変わらず、依然として僕に友達はいない。中学校では小学校の同級生にバカにされていたのが踏襲された。
ひとりは暇なので、勉強をする時間が多くあったのは不幸中の幸い。おかげでその子たちのいない進学校へ入れた。
それでも変わらない日常。ここにもどこにも僕の居場所はない。
周りは充実している人間が多い。勉強も出来、スポーツも出来、当然友達も多くいる。そんな子がうじゃうじゃいて、キラキラと写る。僕は輪に入れない。無理して入ろうとも思わない。
それなのに感じる空しさ。何かが足りない。なんとなく消えたい願望が芽生え始めた6月。曇り空が続く天気のせいかもしれない。
明けない夜はなく、明日は必ず来ると言うが来た所で、今が変わっているわけではない。
明日は今日と同じ明日なのだ。
ユートピアは存在しない。どんなところを求めているのか。自分でもはっきりしない。でもいつも欲している。ここではないどこかを。
高校で変われるかもと思っていた。それだけを希望に生きていた。
一度貼られたレッテルは消えない。それが心底わかった今日。僕は、この世界から消えようと思った。
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