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そして、僕は滝の上から飛び降りた……。
学校の帰り道にいつも立ち寄る、昔からよく知るこの場所。龍和寺の境内の奥にある龍神の滝。
いつも息を切らしてこの滝つぼの前に立つと、不思議と安心し、深い呼吸ができた。
跳ねていた心臓が、滝の音に宥められるように静かになっていく。滝が激しく落ちて来る様は、音と共に心を落ち着かせてくれた。
何度もここに来ては、気持ちの安定を図るようになったのは、いったいいつからだっただろう。落ちていく滝の中で僕は思い返した。
そうだ、小学5年のあの時からだ。
母の顔が一瞬ちらついたが、今の僕には自分以外に気持ちを馳せる余裕はなかった。
滝の音が無音になり、暗闇に沈んでいくのを感じた。どこにも痛みは無く、暖かい何かに包まれて沈んでいくようで心地よかった。
その時、真っ暗闇の中、どこからか声が聞こえた。頭の中に、直接響いてくるような感覚。
『どうしたい?君はどうしたかった?』
繰り返し呼びかけられた。何度目かに自然とその声に答えた。
『あの時に戻ってやり直したい』
『あの時って?』
『小5の転校して来た日』
『どうして?』
『……友達が欲しい。本当はずっと欲しかった。今と違う自分で友達を作りたい』
『違う自分になれるの?』
『今ならなれる気がする。今ならどうすればいいかわかる』
『わかった。では、やってごらん。もう一度。あの時の、もう一つの世界でなりたい自分を生きてごらん』
『もう一つの世界?』
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