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【さんすう探偵vsことば探偵】
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・【さんすう探偵vsことば探偵】
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「鈴香! 相談があるんだけど!」
クラス委員の華絵が、帰りのホームルームが終わると同時に話し掛けてきた。
キタぁ! 待ちに待った事件ね! これこれ! 私が一番跳ねるヤツ!
「おまちどおさま! 正太郎も来たぜ!」
……いやいや、呼んでねぇし、コイツ、耳いいなぁ。
そんな妙に張り切っている正太郎を見ながら、華絵が、
「そっか! 正太郎くんはことば探偵だもんね! じゃあ二人に任せようかなぁっ!」
と言ったので、私は慌てながら
「いやいやいや私だけで大丈夫だから、ずっと私だけで大丈夫だったじゃん」
と私は華絵に話し掛けたはずなのに、正太郎が私と華絵の肩をポンポン叩いて、
「ううん、一人より二人、二人より三人だ、三人寄れば文殊の知恵、俺たちで解決しようぜ!」
そして最後に手でグッドマークを出して、めちゃくちゃ口角を上げた。
すごいグイグイくるじゃん……まあこのコミュ力で一気にクラスに馴染んだんだけども、私はそんなにやわくない!
「じゃあ三人でやろう!」
あっ、華絵は全然やわやわじゃないの……。
華絵も正太郎も私の近くの席に座って、正太郎がグッと拳を握りながら、
「で、どんな事件なんだ、俺がガッツリ解決してやる。そう、ガツケツしてやる」
「何その変な略し! 響きがガス欠みたいでダメそうじゃん!」
しまった、急に心の中で言っているようなツッコミが声に出てしまった。
あまりにも正太郎が変なこと言うから……ヤバイ、急に変なこと言う女子みたいに思われていないかなぁ……と思っていると、正太郎が、
「ワッハッハ! 鈴香! オマエ、良いツッコミ持ってるなぁっ! その調子で頼む!」
何か気に入られた……いや別に正太郎に気に入られようが関係無いけども、まあ声に出したほうがスカッとするし、じゃあ正太郎にはこんな感じでいいのかもしれないなぁ。
正太郎が笑い終わるのを待ってから、華絵が喋りだした。
「えっとね、事件というほどのことじゃないの、ただの問題なんだけどもっ」
すると間髪入れず正太郎が、
「ご飯派とパン派に分かれて、綱引きみたいな問題か?」
みたいなまた変なことを言ったので、ここはもう言ったれと思って私は、
「そんな問題存在したことないだろ! 何それ! 私パン派だし!」
と言うと、正太郎が少し驚いたように目を見開きながら、
「おっ! 俺もパン派なんだよね! この学校のコッペパンすごいうまいよなっ」
「そうそうふんわりしていて口解け豊かで……って! そんな話はどうでもいいでしょ!」
「そっか、そっか、ついボケたらツッコんでくれるかな、と期待してボケちゃった」
「勝手に期待しないでよ! 華絵! 早く本題へ移って!」
何なんだ! 期待してボケちゃったって! 変なヤツ!
本題がどんどん遠くにいくじゃん! 空気の読めないヤツだなぁ!
そして華絵は少し戸惑いながら、
「うん、そうするねっ、ほら、明日は二学期の係決めの日じゃない?」
と言って一呼吸空けたところで、すぐさま正太郎が、
「新たな荒野へ一歩踏み出すわけだな」
「一件落着した西部のガンマンかっ!」
「そうそう、無くした拳銃を探しつつエンディング・テーマが流れる」
「そんなカッコ悪いエンディング無いよ! ガンマンが拳銃無くすなよ!」
私は割と強めにツッコんで終わらせようとしたんだけども、正太郎は全然、何も考えていないみたいな顔で、
「でもまあ百均の拳銃だからいいかっ」
「百円で拳銃買えないでしょ!」
「どうせ、何か、引き金を引いても、やけに甘いゼリーしか出てこないし」
「パーティ用のヤツ! じゃあいらないほうの拳銃!」
とまた強く私がツッコんだところで、華絵が大汗かきながら、
「ちょっ! 正太郎くん! 鈴香! 話が全然進まないよ!」
それに対して正太郎は後ろ頭をポリポリ掻きながら、
「いやだって鈴香が俺を乗せるからさ」
いや!
「正太郎がどんどんボケるから良くないんでしょ!」
正太郎を睨む私に、何故か頭上にハテナマークを浮かばせているような顔をしている正太郎。
何なんだコイツは一体。本当に。
もしかすると私がツッコんじゃうのが良くないのか?
いやでもボケっ放しって少し可愛そうだし、そもそも何か言わないと格下みたいで嫌じゃん。
こっちも言って対抗できるぞ、というところを見せてやらないと。
とか考えていると、華絵が、
「でもっ、何か二人とも息ピッタリで面白いねっ」
なんて言ったので、私は少し慌てながら
「そんなことないって! 私とコイツはライバルなんだからねっ!」
と言うと、正太郎はグッと上半身を前のめりにして、
「いやいやいや、仲良くやろうぜ。とはいえ俺も負ける気は無いがなっ」
何だコイツ……絶対華絵に私のほうが役立つと思われたい!
というわけでまずはここでの会話で先手をとる!
「華絵、その問題というヤツを早く教えて! 正太郎に喋る隙間を与えずに!」
「そっ、そうする! 明日は二学期に担当する係を決める日じゃない? それで、ほら、一学期の時、決めるのすごく大変だったじゃない? やりたいヤツからジャンケンでどんどん決まっていって、掃除係とか余った係は結局、なった人はすごいイヤイヤになったじゃない? それをどうにかしたいのっ!」
熱がこもりすぎて”じゃない?”を連発する華絵に少しおののいてしまっていると、間髪入れずに正太郎が言った。
「じゃあ掃除係になったヤツが優勝にしたらどうだ?」
あまりのバカな発言に私は少しイライラしながら
「何のっ? 優勝とかそういったモノは無いからっ!」
「いやでも実際、掃除係になった人は偉いとか、そういう称号があるとなってくれる人も出てくるかもしれないぜ」
と正太郎は言った。
くっ! 何だコイツ! 急に真面目に喋りやがって!
でも!
「それだけでなってくれるとは限らないと思う!」
しかし正太郎は引かず、むしろ強く、
「みんなが嫌なことだと認識していることに問題があると思うんだ」
と妙にデカい手振りでそう言った。
私は腕を組んでから、
「確かにそれもあるかもしれないけども、それで同じように決めていってもダメだと思う」
「じゃあ、さんすう探偵の案も教えてくれよ」
くっ! いつの間にか正太郎に、ことば探偵にペースを握られている!
これがまさに”ことば”探偵というヤツなのか!
でも私はこれぐらいで負けないし、むしろここから!
「華絵、正太郎、色分け問題って知ってるぅっ?」
またちょっと得意げな感じに語尾が上がってしまったけども、まあそれは別にいいでしょう。
私のこの言葉に華絵も正太郎も首を横に振って、
「いや、私は知らないわ」
「俺も、その言葉は知らないなぁ」
チャンス! こっからが私タイム!
私は意気揚々と説明を開始した。
「接している国が違う色になるよう塗り分けるには、どんな地図でもたった四色で色分け出来るか? という問題なんだけども」
と言ったところで正太郎がカットインしてきて、
「う~ん、それは無理だろう、だって接している数が四つ以上の国だってあるだろうし。国じゃなくて県に置き換えてもいいよな。長野県なんて七つ以上と接しているからな。無理だ、無理」
よしっ、なかなか良い相槌じゃないか。
ここで私がバシッと決めてやるんだ。
「実は四色で必ず色分けできるの」
「マジでっ? それはすごいな!」
「でも、それが何の関係があるのっ?」
正太郎と華絵が驚いている。
いいぞ、いいぞ、この調子。
私は話を続ける。
「この四色定理というモノにはコツがあって、難しいところから色分けを始めるといいの。日本なら、青森県や山口県などの、先っちょから順にやるのではなくて、正太郎が言った長野県からやっていく、といった感じに」
正太郎は感嘆の息を漏らしながら、
「そうか、どうせ先っちょは隣接している県が少ないなら、何の色でも合うようになるもんな」
よっしゃ、ここで私の勝ち確だ。
「つまり、この色分け問題と同様、難しい係から決めていくといいと思う。クラスメイトの母数が減っていない段階で難しいところをクリアする。この方法なら最後に余ってイヤだイヤだみたいにならないんじゃないの?」
私のこの言葉に正太郎は深く頷きながら、
「確かに、実はそこまで掃除係が嫌じゃないけども、他の行きたい係に行けたからそれでいい、みたいな人がいたかもしれないな」
勝った! これはもう完全勝利だ! 絶対さんすう探偵のほうがすごいんだ!
そんな感じで心の中で狂喜乱舞していると、華絵が、
「さすが鈴香! その方法でいこう! でも……」
「でも?」
私が小首を傾げていると、華絵が拳を強く握りながら、
「正太郎くんの案もいいと思う! 掃除係をする人は偉い人と言うこともいいかも!」
と言うと正太郎もその力強さに呼応するかのように、
「よしっ、じゃあ俺が係決めの時にそれを強く言ってやるぜ!」
……どうやら私の独り勝ちにはならなかったみたいだ……でもまあいいか、このことば探偵とやらも結構やるじゃない、まあ今日のところは引き分けということで……と思ったところで、正太郎が、
「まあ偉いと言いまくる役目もあるし、俺のほうが頑張ったということかなぁ」
なんてバカなことを言い出したので、私は焦りながら
「いや引き分けでしょ! この対決は引き分け! そうでしょ! 華絵!」
「う、うん、まあ引き分けだと思うよ……うん……」
と体を少し仰け反っている華絵。
私は少し焦りながら、
「何でちょっと華絵ヒイてんのっ!」
「いや、何か、鈴香の圧が強くて……」
「圧は普通!」
と私が言い切ると、正太郎が全く表情を変えずに、当たり前の相槌のように、
「略してアツウな」
「何か熱されてアツいみたいになってる!」
「まあそれくらい熱心な圧だったから」
「全然熱心な圧じゃないし! かなりクールな引き分けだし!」
何だこの正太郎ってヤツ! 言葉を使ってこっちが負けだと言わせようとして!
やっぱり何か腹立つ! 次こういうことがあったら絶対負けないんだから!
――そして、その後、いざ本番となったが、係決めはちゃんとつつがなく終了した。
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