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 彼を実家に呼ぶのは気が進まなかった。母一人子一人で暮した家は都下の古いアパート。彼のような人が足を踏み入れるところではない。  けれども、それを聞いた彼は、「なおさら行ってみたい」と、意気揚々としていた。  だが、いざその日を迎えると、道中彼は次第に口数少なくなった。表情も読み取れない。新幹線を乗り継いだ長い道のりで、疲れてしまったのだろう。  ただでさえ、地方から足を運ばなければならないのだから、せめて、都心のどこかに場所を設ければ良かったと、私はずっと後悔していた。  これでも都内かと思うほど、寂しい田舎の細道。黒光りする大きなハイヤーに、すれ違う人が一人、物珍し気に振り向く。  私の胸はざわめき、もう、これ以上進みたくないと思っていたが、懐かしい小さなアパートがぽつんと見えてきてしまった。  もう遅い。アパートの前で車が止まる。私はいまさら、とても恥ずかしくなった。  車から降りると、彼はぐるりと辺りを見回した。私に一瞥もくれず、スタスタと歩きながら言う。 「どの部屋?」 「……101よ」  彼の声色は、まるで別人のようにとても冷たかった。
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