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初潮の出来事が、頭の中にべったりと血糊のようにこびりついている。
気持ち悪い。母が気持ち悪い。
どんなに母の思いやりを感じても、あの時のショックを綺麗に洗い流してはくれることはなかった。
大人になっていくにつれ分かってくることが沢山あった。
母が私に言いつけていた数々の決まり事は、すべて血のため。かすり傷も作らないよう、ほんの少しの血が滲むことすら起こらないようにするためなのだ。
海外のように家の中でも靴を履き、外へ出るときは常に手袋をさせられていた。夏でも長袖だったし、スカートのときでも足首まであるスパッツを必ず履いていた。
日光アレルギーだと言われてきたが嘘だ。私が怪我をしないために吐いていた嘘だったのだ。
私は母と距離を置くために大学へは進学せず、就職した。進学したとして、物理的には離れることができたかもしれないけれど、学生でいるうちはどうしても母の管理下に置かれることになる。 養ってもらっているうちは、本当の意味で母と距離をとることはできない。
もちろん就職先は勝手に決めた。遠方での就職を希望する私に、進路の先生はずいぶん心配してくれたが、母は了承済みだと嘘をつき書類も全部自分で書いてしまった。
罪悪感は微塵もない。母だって私に嘘を吐いてきたのだから。
家を出ると話したときの母の姿はとても恐ろしかった。
なりふり構わず私にすがり付き、『私のそばを離れないで』と凄まじい表情で泣きわめく。『血が、血が出たらどうするの?』と――。
それがよりいっそうに私の決心を硬くした。
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