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「私の血には砂金が混じってるの」
ある時、私は彼に血の砂金の話をした。
今まで誰にも話したことがなかった。口に出してみると、自分が母のような生き物になってしまった気がして鳥肌が立つ。この感じ、久々だ。
それでも話さなければならなかった。彼は最近、ことあるごとに母に会ってみたいと言う。いよいよ結婚を切り出されるかもしれない。
付き合って程なく、なんとなくだが二人とも結婚を意識していた。その頃から母とは疎遠だと伝えてあったが、さすがに結婚ともなると挨拶するくらいはするべきだ、と彼は言う。はじめはそれすら気が乗らなかった私も挨拶ならしてもいいと思えるくらい、母と会わなくなってからずいぶん時が経っていた。
母はきっと血の砂金の話をするだろう。変に思われる前に先に話しておいた方がいい。
私はつとめて軽く、ごく軽く切り出した。
「――って言ったらどうする?」
「――それ、本当?」
私はふふ、と笑った。
「まさか。母はいい母親だったけど、頭がどうかしてたみたい」
「確かめたことあるの?」
「ないけど? 確かめようがないじゃない。でも月に一度のアレの血には混じってないよ」
「――俺、知ってる……」
彼は青ざめた顔をした。そして、真っすぐに私を見る。
「それ……流れてる血にしか混じっていないんだよ」
彼は母と同じことを言った。
彼の言葉に私の血の気も引いた。
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