さがしもの。

3/4
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 あの黄色いバッグよね?と言いながら彼女の姿と声が遠ざかっていく。どうやら、一緒に探してくれるつもりらしい。実にありがたい。  実際、一階に置き忘れたとしたら玄関かリビング、あって洗面所と行ったところだろう。まずは玄関をチェックしたが、さすがに目立つところにあの黄色いバッグが置いてある様子はなかった。というか、さすがにあったらお母さんが今通りがかった時に気づいてくれたはずである。  リビングに行くと、お母さんがあっちこっちを探してくれているようだった。天然ボケなお母さんなので、何故か私の手には届かない棚の上やカーテンレールの上に手を伸ばして探っていたりもするけれど(どう見てもあたしの身長では届かないのに)、一緒に探してくれる気持ちはありがたい。キッチンを見れば、包丁とまな板、肉が出しっぱなしになっている。料理を中断させてしまったことに、少しだけ罪悪感を覚えた。 ――さっさと見つけて、晩御飯のお手伝いをしないと。  見たところ今日の料理はシチューか何かなのだろう。火はついてなかったが、大きな鍋と牛乳が用意されていた。あたしの大好物だ、これは探し物も気合を入れなければなるまい。 「絵具箱ちゃーん、どこですかー?どーこーでーすーかー?」  声をかけながら、あたしは洗面所の方を覗き込んだ。いつもあたしは絵の具箱を使って持ち帰って来た時、ここでもう一度綺麗に洗って、窓際に干しておくということをする。お風呂を使っていない時間帯なら、お風呂に干すこともあったはずだ。だからぼんやり持って帰って来て、洗面所で洗おうと思って置きっぱなしになってしまっていたり、あるいはうっかり洗ってお風呂場に――なんてオチもあるかもしれない。  洗面台の中。ドライヤーが入っている棚、引き出し。  それからお風呂場のタイル、蓋の上、一応浴槽の中まで念入りにチェックした。が、やっぱり探しても探しても見つからない。布バッグと絵の具をバラバラにどこかに置いてしまった可能性もあるのだろうが、少なくともあの大きくて目立つバッグを見落とすなんてことはないと思うのだが。水入れやパレットだって、けして小さなものではないというのに。 「あ!」  その時、リビングから声が聞こえてきた。まさか見つかったのか、とあたしは慌ててそちらに引き返す。お母さんは口を“О”の字にぽかーんと開けて佇んでいた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!