さがしもの。

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さがしもの。

 さほど長くもない小学生生活だが、これだけははっきりと知っている。いざ宿題をやろうとした時、そのための道具やドリルがない!と直前で気づくことほど困ったことはないということだ。しかもそういう課題に限って、締切ギリギリまで放置していたブツだったりするのである。 「やっべ」  思わずあたしは呟いていた。目の前に広げたのは、写生会で描いた絵。といっても、現状描かれているのは鉛筆で描いたうっすらとした線のみである。学校の図工の授業で民家園に行き、その景色を写生してくるという課題を貰ったのだが――まあ、小学生にはあるあるの話、私は友達とほとんどの時間を雑談に費やしてしまい、肝心の絵は殆ど手つかずで終わってしまったのである。  一応、スマホで写真は撮って来てあるので、それを見ながら家で続きを描くことはできるのだが。いかんせん、元々私は図画工作というものがあまり好きではない。図工でC評価を貰う奴なんか初めて見たわよ、とお母さんには心底呆れられたほどだ(小学校の評価は、ABCの三段階評価なのである、本来なら宿題さえちゃんと出していればC評価なんてそうそうつかないものらしい)。  今回の絵も、鉛筆でうっすら下書きにもならない下書き、の状態で持ち帰ってきたのを見て、お母さんには頭を抱えられたものである。しかも、何故民家の真正面に陣取ってしまったんだと言われた。本来こういった写生を行う場合は、遠近感が出るスポットで絵を描くのが一般的らしい。真正面にドーンと民家が見える場所なんか普通選ばないでしょ、とのこと。 ――だって仕方ないじゃーん、みっちゃん達がこのへんに座ったんだもん!一緒にお喋りするならさ、隣に座るのがふつーでしょ!?  そもそもお喋るするための課外学習ではないだろ、というツッコミはまあともかく。  とにかく、あたしは現在最大のピンチに陥っているのである。明日締め切りの絵を、今から完成させなければいけない。まだ鉛筆でうっすら線、しかない絵を。うっすらとした空の色さえまったく絵の具で塗られてはいない絵を。それだけで“本当に終わるの?徹夜しても終わるかどうか危ないんですけど?”なところだというのに、現在手元に肝心要の絵の具がないのである。  どこかで落としてしまったか、なくしてしまったか、あるいは忘れてきてしまったか。ちゃんと学校から持って帰って来た――と思ってはいるのだが、いかんせん自分のおっちょこちょいな性格はあたし自身が一番よくわかっているのだ。うっかり学校に置きっぱなしにしてしまった可能性も、ゼロではない。 ――でも、今から教室に確認しに行くとか無理だし!時間もそうだけど、絶対教室閉まってるもん!!  なんといっても今日は日曜日。もしかしたら宿直の先生が残っているとかあるのかもしれないが、空振りだったら時間を浪費するだけの大惨事である。  というか、何故夕方の今の今になるまで、絵の具箱がないことに気づかなかったのだろうかあたしは! ――探す!家にある可能性に賭けて、探すしかないっ!  幸い、なくなったのは小さなチューブではなく、絵の具セットまるまるである。小さなものではないので、探し物としての難易度はけして低くないはずだ。あたしはまず、自分の机の下から探索を開始することにしたのだった――。
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