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懐かしい声
――ねぇ、覚えてる?
忘れたはずの、忘れたかったはずの記憶を揺さぶるような、淡い声。
どうして思い出させようとするのだろう。手紙を破り捨てるように、切り捨てたはずの物語を。乾いた笑みを浮かべながら、その者の名を呼んだ。もう、過去の名だが。
「ええ、忘れられるはずもない。貴女は私にとって最大の過失なのですから――アリス」
あらあら、ひどい言い草ねカラスさん。それはお互い様でしょうに。
「まあ、そうですね」
月を忘れた果ての街を永遠に彷徨う。
罪も、理由も、忘れて。
それが罪人に与えられた唯一のものだった。そのまま一生何処にも辿り着けず終わる者も少なくない、そして自分も――そうだった、そうなるはずだった。
異様に知識に執着し、時も忘れ知識を渇望し、詰め込む。無限に知識を増やし続けることが快楽だった。膨大な量の読書を繰り返し繰り返し……それは常人なら、とうに悲鳴をあげるものだ。
そんな狂い果てた時を繰り返す中、この少女――アリスと出会った。可愛らしい見た目とは裏腹に、結構思ったことをなんでも口にするタイプのようだった。
少女は全身をまじまじ見ながら、興味深げにこう言った。
烏羽色……外套も、鳥の羽みたい。
私はアリス、よろしくねカラスさん。
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