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真夏のある日、僕は、今日もその夜道を歩いていた。
すると向こうから、街灯の描く路上の円の中に飛び石のように現れながら、小学生くらいの女の子が歩いてきた。
この近所の子だろうが、知らない子だ。
きょろきょろとあたりを見回している様子から見て、どうも探し物をしているらしい。
「どこだろう、どこだろう」
とつぶやいている。
少女は、僕のほんの二三メートル先までやってきた。
「お嬢さん、こんな時間に危ないよ。何を探しているの?」
「私の頭を探しているの」
そうしてまた、どこだろう、どこだろうと言って歩き出す。
僕は、頬をぽりぽりと掻きながら、訊いた。
「きみ、その、首の上に載っているのはなんだい?」
「頭よ」
「そうだよね。頭、持っているじゃあないか」
「これはアキちゃんの頭を載せてあるの。目や口があった方が探し物に便利だから。ああ、私の頭はどこだろう、どこだろう」
そう言って彼女は、僕の横を通り過ぎていく。
妙な遊びが流行っているものだな、と思ってよくよく少女を見ると、その首には包帯のように布が巻かれ、添え木が当ててあった。
なかなか手が込んでいる。
変に感心しながら彼女を見ていたら、その背中に妙なものがあった。ランドセルのようだが、形が違う。一回り小さく、丸い。
――首だ。
人間の生首が、少女の背中にくくりつけられている。見たところ、少女と同じくらいの年恰好の女の子だ。少女は全く気付いていないらしい。
生首は、当然ながら、完全に生命としての機能を停止しているように見えた。目を閉じており、声を発する様子もない。
「きみ」
「なあに?」
「ああ、いや、なんでもない」
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