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見えてないんじゃなくって
見たくないんだ
出来ないんじゃなくって
やりたくないんだ
もてないんじゃなくって
売り出してないだけなんだ
そんなわけないじゃん
みんな言い訳
誰かしあわせにしてくれよ
人任せにさせておくれよ
胃腸痛いの嫌いだよ
俺もう薬漬けだよ
毎朝栄養ドリンクだよ
毎晩深酒だよ
枕の匂いは加齢臭だよ
いいとこなしだよ
そんでも
男だから
歯を食いしばる。
【歯を食いしばれ】
言葉が上手くなかったから、メモを書いてから話せよと、入社一年目に言い渡された。
なんという屈辱か。
要領が悪かったから二年で支店長になった男の送迎会の幹事をやる自分はまだ電話番のような仕事しかさせてもらえなかった。
人が良かったから、自分の企画書を後輩にパクられても、いいよ。と笑っていた。
ああ、もっと、上手く。
ああ、今度こそ上手くやるさ。
「斉藤君は独身だからぴったりだと思うんだ」
そして六年目、独身だったから地方へ飛ばされる。
「そんな訳あるかよ。くそー俺が仕事出来ないと思っているんだ」
「お前はどーも、立ち回りが下手なんだよな」
「ああ、そりゃ悪かったな」
「謝ることないさ。別に俺の事じゃないから」
軽く笑った男は同僚の朝倉だ。
同期で同じ部署。仕事が出来るわけじゃない、それでも人並みに見られているのは要領の良さだ。
六年の月日で染み付いた額の皺をぐりぐりと揉みながら俺は煙草に火をつけた。形だけの送別会に飽き飽きし、安い飲み屋で二人だけの二次会だ。
「畜生、俺ばかり嫌な仕事を押し付けやがって」
「でも出来ちゃうんでしょうが」
「…まあな」
「断らないし」
「まあな」
「それって上からしたらヒジョーに都合が良いわけですよ。俺なんか断っちゃうもんね」
「それが出来たらなあ」
「人のせいじゃないからね」
朝倉がビールジョッキを持ちながら言った。
「お前のせいだからな」
「……解ってるよ」
ストレスの為か、大学時代から随分と痩せた。
スマートね、と言われても嬉しくない。
負のスパイラルだった。
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