ことのは

2/3
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
彼女にカードを引いてもらう。 「女教皇」が正位置で出た。 伝説上の人物・女教皇ヨハンナをモチーフとしたカードだ。 水色の装束を身にまとい、手に書物を手にしている。 このカードが象徴するのは、直観、聡明、理性、安らぎ、神秘など。 「動」よりも「静」を意味する。 目の前の夫人から、悲痛さや、深刻さは感じられなかった。 夫の暴力や浮気に、悩まされているわけでもないようだ。 彼女は、ある程度現状に満足している。 占いなんて、ただの遊びだ。 ふいにこぼれ落ちそうになるちょっとした不満を、お金を払って、他人に吐き出したいだけなのだ。 だけど。真弓は、ふと考える。 もし今ここで、「離婚するべきだ」と、断言したとしたらどうだろう。 彼女は迷うだろうか。本当に離婚してしまったりして。 他人の人生の、重大な局面に、そんなふうに関わっていく。 判事が大きなハンコを押すように、自分が「バンッ」と判定をくだす。 真弓は、くらりと目眩を覚えた。 ふいに心が揺らめいた。 「どうかしら? 離婚、するべきかしら」 夫人が、身を乗り出した。 濃いサングラスの向こうの目玉が、こちらに向けられているのが分かる。 離婚しなさい、と言ってしまいたい。 平凡な人生から抜け出して、自分の手で、人生をつかみなさい。 今が、羽ばたく時なのです。 真弓は、ごくりと唾を飲みこみ、言った。 「女教皇は静のカード。もう少し、様子を見たほうがいいと思います」 「そうするわ」 夫人は満足げにニッコリした。 真弓は思う。 自分には何もできない。 未来をピタリと言い当てることもできない。 ただ、カードを指し示す。 ありふれた悩みを聞き出し、うなずいて話を聞く。 少し傷ついて、かまってほしい誰かさんに、かけてほしい言葉をかけてあげる。 ポンと背中を押してあげる。 そうすることが、自分の仕事。 それに誇りを持ちたい、と思っている。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!