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彼女にカードを引いてもらう。
「女教皇」が正位置で出た。
伝説上の人物・女教皇ヨハンナをモチーフとしたカードだ。
水色の装束を身にまとい、手に書物を手にしている。
このカードが象徴するのは、直観、聡明、理性、安らぎ、神秘など。
「動」よりも「静」を意味する。
目の前の夫人から、悲痛さや、深刻さは感じられなかった。
夫の暴力や浮気に、悩まされているわけでもないようだ。
彼女は、ある程度現状に満足している。
占いなんて、ただの遊びだ。
ふいにこぼれ落ちそうになるちょっとした不満を、お金を払って、他人に吐き出したいだけなのだ。
だけど。真弓は、ふと考える。
もし今ここで、「離婚するべきだ」と、断言したとしたらどうだろう。
彼女は迷うだろうか。本当に離婚してしまったりして。
他人の人生の、重大な局面に、そんなふうに関わっていく。
判事が大きなハンコを押すように、自分が「バンッ」と判定をくだす。
真弓は、くらりと目眩を覚えた。
ふいに心が揺らめいた。
「どうかしら? 離婚、するべきかしら」
夫人が、身を乗り出した。
濃いサングラスの向こうの目玉が、こちらに向けられているのが分かる。
離婚しなさい、と言ってしまいたい。
平凡な人生から抜け出して、自分の手で、人生をつかみなさい。
今が、羽ばたく時なのです。
真弓は、ごくりと唾を飲みこみ、言った。
「女教皇は静のカード。もう少し、様子を見たほうがいいと思います」
「そうするわ」
夫人は満足げにニッコリした。
真弓は思う。
自分には何もできない。
未来をピタリと言い当てることもできない。
ただ、カードを指し示す。
ありふれた悩みを聞き出し、うなずいて話を聞く。
少し傷ついて、かまってほしい誰かさんに、かけてほしい言葉をかけてあげる。
ポンと背中を押してあげる。
そうすることが、自分の仕事。
それに誇りを持ちたい、と思っている。
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