ことのは

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ことのは

外は雨が降っているらしい。 足早に歩く人々の手には皆、傘が握られている。 駅ビルに直結したデパートの、地下の片隅。 「占い」と書かれた、こじんまりとしたスペースに、真弓とその女性客は、テーブルを挟んで向き合っていた。 永崎真弓は、二十五歳。新米の占い師で、タロットカードを使ったリーディングを得意としている。 「すごい雨ですね」 真弓は言った。 天気の話は当たり触りがなくていいと思っている。 それは共通の認識で、必ず同意が得られるものだ。 「ええ、本当に」 女性客はうなずいた。 真弓はほほえみ、カードの山を両手で崩してシャッフルした。 そうしながら真弓は、目の前の女性客を、それとなく観察した。 ラメの入った紫のカーディガンの肩が、雨で少し濡れている。 カーディガンの中は、WOOOWという文字と、熊の顔の描かれたTシャツ。 顔には大きなサングラスをかけている。 ずいぶんと派手な格好だ。 五十年配というところか。 栗色の豊かなウエーブ・ヘアをしているが、かつらかもしれない。 彼女は「ダンナと離婚しちゃおうか、なんて思ってるの」と口にした。 「穏やかな人でね。 それはいいんだけど。ウチのことはなーんにもしてくれないの」 腕を組み、小さくハアとため息をついて、彼女は続けた。 「だらしがないのよね。 趣味みたいなもんが、なーんにもないの。 私が出掛けようとすると、どこ行くんだワシも行くって。 今日だってサーッと抜けてきたのよ。ねえ、私、年取っているでしょう」 「いえ、十分お若いのでは」 真弓は苦笑した。 「私ね、この先の人生ね。このままでいいのかなあ、なんて思ってしまう。もっとこう、羽ばたけるのでは! なんてね。 自分のやりたいことやって。贅沢かしら」 「やりたいことがあるのなら、それもいいかもしれませんね」 「残念ながら、特にないのよねえ」
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