10万メートルのきみ

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「お父さん、地上から宇宙までは何メートルくらいあるの?」  土曜日。昼下がりのカフェで小説を読んでいると、目の前で始まった素朴な質問に思わず顔を上げた。  一人掛けソファーに座った父親らしき男性へ、向かいに座った小学三年生くらいの男の子がゲーム機を片手に前のめりになって問いかけている。  そのゲーム機の画面を見れば、懐かしのパックマンが映っていて、なんだか渋い子だなと思うと共に、えらい唐突な質問だなと思った。 「ねえ、お父さん。地上から宇宙まではさ、何メートルくらいあるの?」  パソコンからようやく顔を上げた男性は、「なんて?」と静かに聞き返した。 「ねえ、宇宙までは何メートル?」  ……え、何メートルなんだろ。  なんて答えるんだろう、とそわそわと見守っていると、黒縁眼鏡をかけて少し伸びた髪を無造作に散らした黒いポロシャツ姿のお父さんは、小首を傾げながらつぶやく。 「……1.5メートルくらい」  なわけ、ないだろ。
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