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お父さんと、お父さん
送り迎えは基本、時間の調整がつきやすいぼくがやって、家事は分担制。二人で必死で初めての子育てをした。本屋に並んでいる「赤ちゃん」シリーズの本や、絵本を買っては、勉強しながら、ユウをその名前のとおり、勇気のある、優しい子に育てようと必死になった。
その甲斐があり、ユウは元気いっぱいに走り回る、わんぱくな男の子に育った。
幼稚園でも友だちがたくさんできたし、お誕生日会には女の子から告白されたと言っていた。
ユウは、ぼくらにとって、かけがえのない大事な存在だった。
けど、年長さんになった年のお遊戯会のあとで、それは起こった。
「なんでぇえぇぇー!」
玄関で火がついたように泣き出したユウは、三日前から幼稚園を休んでいた。
理由は言いたがらなかったが、どうしても行きたくないと言うので、先生に電話して休みをもらっていたのだが、四日目の朝、どうにも堪えきれなくなったようで、泣き出した。
最初はべそをかいているだけだったが、ぼくが抱きしめようとすると嫌がる。イヤイヤ期とは少し様子が違うし、機嫌を取っても全然泣き止まないので、理由を聞いた時だった。
ユウは大きな目に涙をいっぱい溜めて、
「なんでうちにはお母さんがいないの?」
と尋ねた。
「え……?」
ぼくがその言葉に動揺したのが伝わったのか、ユウはみるみるぐずり出し、最後には泣き叫びだした。ぼくが触れようとすると突っぱねて、身体をまるで苦しげに悶えさせて駄々をこねる。
「なんでお母さんがいないのぉー! ユウちゃんもお母さんがほしいぃーっ!」
その言葉に、ぼくは一緒になって泣くしかなかった。
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