へんなの

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へんなの

「ごめんね。ごめんね、ユウ」  お母さんがいなくて、ごめんね。  お母さんになってあげられなくて、ごめんね。  あとで詳しく聞いたところ、お遊戯会を観覧しにきたぼくたちを見た友だちのひとりが、ユウの家はどうしてお父さんしかこないの? と尋ねたそうだ。「お父さんが二人だから」と答えたら、「へんなの」と言われたと。その時になって、ユウは初めて違和感に気づいたらしい。他の家はお父さんとお母さん、つまり男女がペアになってきている。でも、うちは違う。うちはお父さんが二人。男性と男性。つまり、ぼくと、ぼくのパートナーの彼が、父親でもあり、母親役もこなしている。  昔よりずっと時代が進んだとはいえ、まだマイノリティに対する偏見はある。  ユウも、遅かれ早かれ他者との境界線を発見し、悩む時期がくると覚悟していたつもりだったが、まさかそれが「同性愛者の子ども」として外から認知されることで訪れるとは、ぼくも彼も考えていなかった。いや、そういったことも想定はしていたが、もう少しあとにやってくるものだと楽観的に構えていたのだ。  結局、ぼくは取り乱して、悩んだ末にユウの前で、血迷ってスカート代わりのバスタオルと、エプロンを着用してみせた。 「ほ、ほら、お母さんだよ〜」  ユウは当然、わんわん泣き出し、ぼくはおろおろするばかりで、謝っても宥めてもどうにもならず、彼に助けを求めるよりなかった。 「ユウ、うちはうち、よそはよそなんだ」  彼は帰宅するなりぼくの格好を見ても笑いもせずに、泣き疲れて消耗しているユウの目を見た。
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