一番大切な人

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一番大切な人

「ユウが欲しいものを与えられなくて、俺たちはすごく悲しいし苦しい。お前に申し訳ないとすら思う。だが、日本は一夫一夫制の国だ。俺たちは結婚しているから、ユウがお母さんを欲しがっても与えてあげることができない。もし与えられるとすれば、俺らが別れて、他の全然知らない女の人をお嫁さんにもらい、お母さんのふりをしてもらって、ユウが俺たちのうちどちらか一方に、家族として引き取られるしかない。俺たちが別々になって、片方とは二度と会えなくなっても、ユウは新しいお母さんが欲しいか?」  厳しいことを言い過ぎだとぼくは思ったが、彼は譲らなかった。 「俺たちが結婚した時、二人で一番大切にするのはユウだと決めた。だけど、もし一人に戻ったとしたら、俺が一番大切にするのは彼だ。なぜなら彼を愛しているから。ユウには申し訳ないが、俺らは互いがいなければ生きていけないんだ。……ごめんな」 「とぉと、ユウちゃ、が、きらい、なの?」 「好きだよ。大好きだ。彼の次にユウを愛している」 「ユウ、にばんめ、ゃぁだ……っ」 「俺たち二人の中では、ユウが一番だよ」 「う、ひっく……」  ユウに対して、わかっているかいないかも確認せずに、それでも彼は、理解してくれると信じて、語りかけ続けた。いい機会だから、という声に、ぼくは少し不安だったが、彼の誠実さの現れを、ユウの為だと言って遮ることはできなかった。 「お母さんになってやれなくて、ごめんな。でも、お父さんにはなってやれる。二人とも。それでどうにか勘弁してくれないか」 「っ……」 「それと、自分にとって一番大切な人には、ユウがこれから自力で探し出して、出逢うんだ。その人も、きっとユウのことを一番大切に想ってくれるはずだ。これからそういう人に逢えると想像するだけで、楽しみが増えると思わないか?」 「……ぅ……」  ユウは納得いったのかいかないのか微妙な返事をして、こくんと頷いた。
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