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ユウちゃんち・家族のかたち
「なぁ……、気が向いたら、仲直りしないか。ユウ、にぃにに無理言ったんだろ? にぃにがこんな格好するなんて、俺の前でも世間の前でも絶対にやらない特別なことなんだからな?」
彼はそこで初めて、ぼくのバスタオルを巻いたスカートもどきを揶揄した。
「と、くべつ……?」
「そうだ。ユウのためにだから、やったことなんだ」
「っ……ぅ、……にぃに……」
気まずそうなユウに、ぼくは手を差し出した。仲直りの握手のつもりだったが、ユウはそれを両手で握ってきた。ちなみに、「とぉと」が彼、「にぃに」がぼくのことだ。家ではそう呼び分けていた。今は、「お前ら」とか「二人とも」とか、一緒くたにされるばかりで、一人ずつの時は名前で呼ばれるようになってしまったけれど。
「今頃、二人で空港かあ。二十八年って、早いなあ……」
「俺たちも第二のハネムーンしよう」
「えっ」
「ユウも大人になったことだし、今後を考えてもいいんじゃないかと思ってさ。結婚した当時は、忙しかったこともあって、ゆっくり考えるなんてしなかったし」
「とぉと、真面目に言ってる?」
「大真面目ですよ、にぃに」
言い合って、もうこの愛称で呼ばれることもないんだ、と思うと、少し鼻の奥がつんとした。
「そうだな……」
ぼくは胸がいっぱいになり、考え込むと、ちょうどぼくと彼のスマートフォンに同時にメッセージの着信がきた。
「あれ?」
「ユウからだ」
「『とぉと&にぃにへ、ハートマーク、第二のハネムーンに浮かれすぎんなよ!』……だって」
「これ搭乗口付近じゃん。彼女に引っぱられてるけど、飛行機乗れたってことかな?」
「そうだろ。お前が浮かれすぎんなって話だよな。あいつも成長したよなあ。でも、尻に敷かれるな、これは」
呼び方も相変わらずだな、ととぼけた彼に釣られて、ぼくも思わず笑ってしまった。
ぼくらは母親から生まれて、でも母親にはなれなかった。
そのことを悔いたことも、嘆いたこともあった。
でも、人は千差万別、多種多様な生き物だ。
ぼくらは、このかたちで全然いいのだと思う。
=終=
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