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先生は元から先生じゃなかったんだって
【せんせいはくま3】
一番恥ずかしかったのは飲みすぎてちょっと漏れちゃった事だなあと先生は笑った。
いくつの時?と聞いたらさんじゅうさーん、と答えが返ってきてちょっと引いた。しかもおっきい方だったと言ったのでびっくりした。
「先生やばい」
「仕方ねえだろ、ベロベロだったんだから。ありゃ不可抗力だ」
「これから飲み会に行く時はオムツするべきだ」
「ばか、小便もできねーじゃねえか。いいか少年、お前だってな、大人になりゃ解るんだよ。自分が限界だと思っても引くに引けねえ時があるって事を社会に揉まれて勉強しなさい」
「センセー、先生って人種は学校出たらまた学校に逆戻りするから世間知らずが多いってオカンが言ってたんだけど」
「…お前の母ちゃんキッツイのな」
ガシガシとくまが頭を掻いた。髭面の先生は、なんか先生らしくない。
俺のまあまあ好きな大人の一人で、面白い人間の一人だ。
ま、俺は結構異端児だから。そう言った先生は大人の顔をしてた。
「昔はトラックの運転手とか、土方とかさ、やってたよ」
「マジで」
「マジですよ」
「すげーな、デコトラとか乗った?」
「デコトラなー…。ない。金かかるし。俺は長距離でもなかったし。現場に材料運んで、現場で働いてまた帰る。気は荒いけどいい奴ばっかで楽しかったよな」
でも、長く続けられる仕事でもなかったから。
そう喋る先生は、どこか遠い目をしていて転勤を言い渡された親父が、今日異動になったよとオカンに言っていた顔によく似ていた。
大人って、寂しそうよな。と俺は思った。
たまに大の大人が可愛いなって思う時、ある。
先生、特に可愛いな守ってやりたいっていうか。
(あ、でもさ。先生なら俺の事守るって言いそう。あれ、でも守るとか守られるとか、なんで俺こんな事考えてんだろ)
俺、先生が喋るのを聞きながらそんな事を考えた。
【せんせいはくま3】完
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