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【せんせいはくま】
昨日、さ。
俊弘は輪郭がぼんやりしてるねって、彼女に言われた。
俺はだるいのでなんでそんな事言うの、マジでうぜえ、死ねって言った。
そしたら彼女は、もう俊弘と付き合えないって泣き出した。傷付いたって言ってたけど、輪郭がぼんやりしてるって言われた俺の心の方が傷ついたと思う。
17才にして、
「輪郭がぼんやりしてる、だぜ。どう思う先生」
「まじウケるー」
「ウケねえよ!」
「だってお前ら言うじゃんか。まじウケるって」
「言うけどさ、なんつうの、こういう時には使うなよ。先生デリカシーなさすぎじゃね?」
あっはっは。
でっかい口が笑った。
先生の口の下のもじゃもじゃ髭が揺れる。
傷心の俺、学校に来ても勉強する気がおきる訳もなく、サボリの定番保健室に逃げこんだ。
この学校の保健室の先生は、女ではなくひげもじゃもじゃのおっさんだ。
産休で休んでいる永井先生の代わりに先生がきた時は、もうマジで勘弁してくれ、ボインでエロい女が来いと思ったけど、慣れてみれば、男の先生の方が良いと思った。
相談出来るし、少し位のサボリは目をつぶってくれる。
「まあ、俊弘さ。今からはっきりしてても怖えよ。大人になったら嫌でもはっきりするからさ」
「なに、その上から目線のフォロー」
「年上、年上。」
事務机で何か作業しながら、先生が笑う。俺はそれをベッドに寝そべりながら先生の背中を見てた。
確かに先生は、輪郭がはっきりしてる。
でっかくて、顔が四角くて、もじゃもじゃで何かに似てるんだよな。
「先生は」
「ん」
「子供の時、輪郭がぼんやりしてた?」
「んー…。まあ、坊主だったから。」
「坊主?」
「野球部でさ、皆一緒の頭してっから、誰が誰だかわかんねー」
「あっは、マジウケる」
「ウケるだろ」
「先生」
「おう」
「こういう時にマジウケるって使うんだぜ、覚えときな」
「…なるほどなー」
はいはいと、俺の言葉を流しながら、先生がいきなり後ろを向いた。
どきっ、と。なんかどきっ、とした。
先生が俺を見つめる。
「…俊弘さ」
「うん」
「お前、輪郭しっかりしてるよ」
その彼女、視力悪かったんじゃねえか。
「元気だせ、色男」
そう言って、先生、笑った。
あ、先生の顔くまに似てるんだ。
先生の輪郭が今日は一段とはっきり見えた。
【せんせいはくま】完
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