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『慰謝料請求など、するんですか?』 「い、いえ! そんなことしません」 『そうですか』 「もう恋愛は懲り懲りと言いますか。私の5年返せって感じですけどね。もう30過ぎてますし」 『失礼ながら、久野さんは今おいくつでしたっけ?』 「33です。来年で34になります」 『私とそこまで年齢が変わりませんね』 「そ、そうなんですか……? 課長はおいくつなんですか?」 『37です』 「本当に変わらない……」  私は思わず唖然としてしまうと、さほど年齢は変わらないのに一ノ瀬課長は課長ポジションで私は平社員ポジションなのが腹立たしくなる。これでも営業は一ノ瀬課長には及ばないが、営業部でも二位に入る実力なのに。 『何ですか?』 「いえ、課長は出世ができていいなぁと思いまして」 『久野さん、出世したいんですか?』 「当たり前ですよ。給料高くなるんですから」 『人生、生きるだけでお金が掛かりますしね』 「本当ですよ」 『』 「ええ、喜んで……はい?」  私は思わず耳を疑うと、一ノ瀬課長が電話越しで大笑いを上げ、ムッとなる。 『失礼、からかっただけです』 「課長、それ最低ですよ」 『ええ、失礼しました。まぁでも、んですけどね』 「は?」 『では別件があるので、失礼します』 「え、あ、ちょっ!」  ツーツーと通話が切れる音が耳元で聞こえ、私は唖然としながらスマホを見るとクッションに手を伸ばして抱き着いた。  何だあれ、何だあれ、何だあれ。こんなの創作の世界でしか起こらないんじゃなかったのか、人生。こんなことあるのか、人生。おいおい、待て待て待て。これは私の妄想の世界では? 浮気されてショックになる女子に鬼上司が優しい言葉で慰めてくれる、少女漫画で有り勝ちなシチュエーション。 「片付けよう」  私は勢いよく立ち上がると、放置していたスーツケースへと向かい、冷蔵庫にある缶ビールをありったけ飲みながらその日一日を過ごした。
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