***

6/6
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
***  私は目を覚ますと、ベッドから飛び起きて辺りを見渡す。頭がズキッとして、何だろうと思いながらも気だるげな体で辺りを見渡す。スーツケースも無ければ、普段通りパジャマを着て寝ているし、ちゃんとメイクも落とされている。 「ああ、ね。はいはい、知ってた」  私はホッとするとベッドから出て、洗面台へと向かう。顔を洗い、歯を磨き、休日なので髪をセットせずに櫛を梳かすだけで終わると、冷蔵庫へと向かった。冷蔵庫の中には缶ビールは入っておらず、新しく買わなきゃなと近くのメモ用紙に「缶ビール」と記すと、水を飲む。 「あ、この話、美奈にしなきゃ。いいネタになるかも」  私は充電されているスマホに手を伸ばすと、アプリケーションを開いて絶句した。最近通話した人物欄に「」とある画面を見て、ベッドにスマホを放り投げる。 「し、仕事の電話だったかもしれない」  私はスマホに手を伸ばすと、嘘であってくれと頼むようにあいつの連絡先を探した。無論、、綺麗さっぱり消えて無くなっていた。それを見て、顔色が青ざめる。 『なら僕と結婚しますか?』  一ノ瀬課長の声が生々しく聞こえ、私はその場に腰が抜けたように崩れ落ちると、辺りをキョロキョロと見渡す。  どうか、明日にならないでくれ。平日にならないでくれ。そう懇願しながら、何をしていいのかも分からず取り合えず美奈に電話をする。 『はいはーい、どしたー?』  明るい声で出る美奈に私は何から話せばいいか口をパクパクさせると、取り合えずあのことを伝える。 「をされた」  すとんと落ちた別の言葉。美奈の悲鳴。白くなる景色。私はバタッとその場に倒れると、天井を仰ぎながら心の中で神に願う。  おい、人生。私はいつの間に少女漫画の主人公になったんだ。なるなら、少年漫画のヒロインにしてくれよ。その方が絶対楽しいわ。 「ハハハッ……」  私は力無き笑い声を上げながら美奈の質問攻めを耳にすると、外の世界からシャットアウトするように瞼を下ろした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!