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プロローグ
「はあっ、はっ……」
少女は、息を切らしてその黒い影を見上げる。煙のような霧のようなその黒い塊は、少女がふらつくのを見逃さずに襲いかかってきた。
「きゃっ……!」
体勢を整えようと少女が身構えるが、間に合わない。
「!」
とっさに硬く目を閉じて体を縮こまらせる。
だが、しばらくたっても何も起こらない。
「……?」
少女がそ、と目をあけると、背丈よりも大きかったその影が、ゆっくりとほどけて消えていくところだった。
「大丈夫かい?」
声をかけられて振り向いた少女は、目を見開いた。
そこにいたのは、長い金髪の男性だ。
本来なら、自分のような下っ端が直接会うこともかなわない遠くの大きな存在。
なのに彼は、なにかといえば彼女の前に姿をあらわす。始めこそ口もきけないほど驚いて緊張したが、最近は彼のおちゃめな性格も手伝って、小言すら彼女の口から飛び出すこともある。
「あ……ありがとう、ございます」
またこんなところに、と言いたいところだが、彼がこなかったら自分はどうなったかわからない。今度こそ本当に、消滅してしまうところだったのかもしれない。
助かったことを実感した少女は、足から力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「また、ご迷惑をかけてしまいましたね」
「とんでもない。思ったよりあの闇は大きかったようだね。少し、君の手にはあまる相手だった」
「いえ。私の力不足です」
少女は、じ、と自分の手を見つめる。
もう少し、力があったら。きっと、あの闇だって自分で消すことができたはずだ。
「そんな風に言うものではないよ」
穏やかな声をかけられて、少女は顔をあげる。膝をついて少女と同じ目線に座り込んだ男性は、優しく彼女を見つめた。
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