第一章 今、天使って言った?

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「おはよう」  慎くんがあいさつを返すと、私と慎くんのあいだに入り込むように安永さんが立った。  安永さんは、すらりとした美人さんだ。頭もいいし人気もあるし、来年の児童会長は安永さんか慎君になるだろうって言われている。  そんな二人が並ぶと、美男美女でそれはそれは豪華な組み合わせだ。 「ねえ、朝の時間、一緒に図書館行きましょうよ。昨日話してた参考書、持ってきたの。例の問題、詳しく教えてくれる?」 「ごめん。今朝は僕、にわとり当番なんだ」 「今日? 慎君の当番て、まだ向こうじゃなかった?」 「本当はね。今日は、美優さんの代わり。彼女、けがしちゃったんだ」 「けが?」  安永さんと菊池さんが、私の視線を追って膝のけがに気づいた。菊池さんがあきれたように眉をひそめた。 「たいしたことないじゃない。それくらいで慎くんに当番代わってもらうの? がんばれば、にわとりの世話くらいできるわよ」  少しとげのある言い方に、ひゅ、と息がつまる。  そうだねって言った方がいいのかな。痛いから無理って言った方がいいのかな。  莉子ちゃんや萌ちゃんになら簡単に言えるのに。何か言いたくても、喉が詰まって言葉が出てこない。 「僕が代わるって言ったんだよ。ばいきんが入ったりしたら大変だから、すぐ手当てしてもらった方がいいし。だから、今朝はごめん。またにしてくれる?」  私の代わりに慎君が言ってくれた。 「慎君、やさしー」  ちらりと私を見て、菊池さんが続ける。視線が痛い。 「うっせえな、慎がいいって言うからいいんだよ。てめえらには関係ないだろ」  乱暴に颯太が言って、慎くんの手を引っ張ると歩き始めた。
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