9人が本棚に入れています
本棚に追加
「切ったって……誰が?」
なのに、当の菜月ちゃんは私の言葉にきょとんとした顔になった。
「その髪だよ! なんで切っちゃったの?! あ、うん、それも似合うけど!」
毎日お母さんに結わえてもらってるの、って嬉しそうに話していた菜月ちゃんの自慢の髪だった。だから、まさかそんなに短く切るなんて思ってもいなかった。
びっくりしている私とはうらはらに、菜月ちゃんはけげんな顔で首をかしげる。
「髪って……私? ここしばらくは切ってないよ?」
「何言ってんの、美優。菜月の髪って、そんなもんじゃん。何かかんちがいしてない?」
「え……ええ?!」
莉子ちゃんにまでそんなことを言われてさらにおどろく。
だって莉子ちゃんだって、黒くてまっすぐでお人形みたいな菜月ちゃんの髪がうらやましい、ってこないだ言ってたばかりなのに。
「それより、萌ちゃんは? 今日は休み?」
菜月ちゃんは、私の様子より萌ちゃんが一緒じゃないことの方が気になるらしかった。いつも三人で一緒に登校することを、知っているから。
莉子ちゃんが、ランドセルをおろしながら菜月ちゃんにこたえた。
「萌、保健室にいるよ」
「どうしたの?」
「んー、ちょっと具合悪いみたい」
そうなのだ。私と一緒に行った保健室で、先生が萌ちゃんの顔色が悪いことに気がついた。
萌ちゃんは朝ごはんを食べてなくて軽く貧血気味だったらしい。今は、先生にもらったおにぎりを保健室で食べている。ちなみに、おにぎりは先生のお昼用のお弁当だって。
そう説明したら、菜月ちゃんもちょっと、ほ、としたような顔になった。
「よかった。ほら萌ちゃん、先週も倒れたじゃん? またそうなのかと思って」
「ああ、あれはもう大丈夫みたい。……でも、少しそれもあったのかなあ」
先週も萌ちゃんは、具合が悪くて体育の時間に倒れたんだ。いつも穏やかににこにことしているから、私たちも倒れるまで気づかなかった。今朝もおはようと言った時に具合を聞いたけど、週末十分休んだから、と言われてそのまま来てしまった。でもさすがに、保健室の先生にはわかったみたい。
菜月ちゃんと話していると、予鈴が鳴った。私たちはあわてて自分の席に着く。
ランドセルから教科書を出して机にしまい終えると、私はちらりと向こうの席に座っている菜月ちゃんを見る。
最初のコメントを投稿しよう!