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そんな会話をしたのが一ヶ月ほど前。
確かに気持ち悪さはあったけど、命の危険があるわけじゃないし僕はそれほど気にかけていなかった。
写真がネットにあげられるのは嫌だったけど、気がつけばそのアカウントは鍵が掛かっていたし問題はない…でしょう。多分。
徐々にそのアカウントの存在が明るみになり、クラスの皆んなから心配の声を掛けてもらったりもしたけど、なんやかんや一番気を遣ってくれてたのが田森だ。
『真人しか勝たん』をフォローしていたようで、体育前の着替えや登下校で僕を守ってくれていた。まぁ何の意味もなかったようだけど。そういえばうちのクラスの委員長も結構気にかけてくれてたっけ。
そんなこんなで現在までストーカー行為は続いているんだけど、それはひとまず置いといて。
僕は今、とある空き部屋で謎の女生徒に抱きしめられていた。背後から。
ことの始まりは──なんてたいそうな事はなかったけど、今日は珍しく田森が先生から呼び出しを受けて一人で帰ることになっていた。
少し話は変わるけど、うちの学校の裏手には旧校舎なる古い建物がある。取り壊す予定だったみたいだけど何かトラブルがあったようでそのままになっているらしい。
近隣住民にも知られているそれはこの学校に入学したら皆一度は訪れるスポットとなっていたんだけど、僕はまだ一度も行ったことがなかった。
だからちょっと寄り道しよう、なんて軽い気持ちで散策を始めて五分後。実験室を通りかかったところで中へ引き摺り込まれたんだ。
「もごっ! もがもが!」
口を押さえられているから声が出せない。
抱きしめられている感触となんか甘い匂いからして女の子なのは間違いないと思うんだけど、思いの外力が強く振り解くことが出来ない。
勢い余って床へ倒れ込んだ僕らは抵抗と拘束で少しの間芋虫のようにウネウネと動いていた。
そうして幾ばくか。だんだん疲れて力が入らなくなってきた僕の耳元に生暖かい吐息が吹きかけられた。
「ま、真人きゅん…か、かか、可愛すぎぃ」
思わず力が抜けてしまったが、小さく囁かれたそんな言葉に反応してしまった。
そこで何となく僕は察したんだ。これは──新手の告白であると。
最初こそストーカーの暴挙ではないかと焦ったが、多少落ち着いた今そうではないことがよくわかる。
僕を抱きしめるこの腕やガッチリと僕の太ももを固定してくる脚。つまり露出している肌なんだけど、それが褐色なのだ。
考えるとわかると思うが、ストーカー→家から出ない→太陽に当たらない→色白。この方程式は揺るがないっ……はず!
命の危機がないと分かった僕は、耳元ではぁはぁと息を漏らす彼女の顔が近いことを察知して少しだけ顔をそちらに向けた。
「……!」
「はぁ、はぁ…ヤバぃ、この匂い脳が溶けるんだけどぉ」
驚き桃の木。
思わず寒い言葉が飛び出てしまったが、それくらい驚いてしまった。
何せ今、僕を抱き締めている彼女は──。
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