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翌日、昼食に行こうと森田へ声をかけようとしたところで誰かに呼び止められた。
「ま、真人きゅん! じゃなかった、真人くん!」
そこそこ賑やかな教室に響いたその声に皆一斉に扉へと振り返った。
「え、東條さん?」
「真人って白崎のことか?」
「何であいつがお呼ばれしてんだ」
「わざわざお迎えって…まじ?」
一瞬の静寂の後一気に騒がしくなる教室。
皆が驚く理由がよくわかるよ。僕だって最初驚いたもん。
「田森、ごめん。今日はお呼ばれしちゃったし、向こうに行ってくるね」
「え? は? ちょっ、真人!? 説明は!?」
唖然とする田森へ軽く断りを入れ、僕は彼女の元へと向かっていく。
東條晶。皆んなの反応からわかるようにこの学校でも有名な生徒である。
男子すら見上げる百九十近い長身に健康的な肌色。何があったと言いたくなるほど開けられた耳のピアスに銀髪セミロング。そして恐ろしいまでに整った顔から覗くSっ気。言わずもがな凹凸のすごい身体。
何もしてなくても長身にスタイル、顔で目立つような彼女だが、より一層目立つ理由がその風態から分かるんじゃないかな。
一応進学校に属するうちの学校では珍しいギャル。彼女はそれなのだ。
珍しいとは言ってもちらほら見受けられる。彼女の友達だって皆んなギャルだし、それとは別でうちのクラスにもそれっぽい人が二人ほどいる。驚いて声をあげていたのがそれだ。
彼女のもとへたどり着いた僕は笑顔を浮かべる。
「LINEしてくれたらよかったのに。わざわざありがとね」
「あひっ、あ、あ、うん。ご飯、食べ行こ」
「了解!」
一部ではドSだろうと噂されていた東條晶。だけどこの顔を真っ赤にして目を潤ませている様子を見るに、そんな事はないんじゃないかなと思う。
ポンコツ化してしまっている彼女に思わず苦笑いしてしまったが、とりあえず手を引いて教室を離れていく。
「どこ食べ行こっか。使える空き教室とかあればいいんだけどね。ていうかお昼は持ち弁? 僕いつも購買で買ってるし、一回寄らないといけないなー」
僕と東條晶。悲しいかな凸凹コンビである僕らは周囲の目を引いていた。
確かによく考えると学内で一番小さな僕がドSと噂されている彼女の手を引いて歩いてる様は少し面白いかもしれない。
緩む頬を反対の手で少し解しつつ、未だ体の主導権を手放している東條さんへ振り返った。
「わ、わわ、私、今日は真人きゅんのぶんも……ゴニョゴニョ」
「ん?」
恥ずかしいのか小さな声で話す為聞き取れない。
何言ってるんだ? と思いながら彼女の左手を見ると少し大きめの包みを持っていた。
なるほど、これはお弁当だろう。ならとりあえず場所を確保してから買いに行く方が良さそうだな。
「東條さんそれお弁当でしょ? 僕は後で買いに行ってくるし、先に落ち着ける場所探そうよ」
そう言って彼女へ笑いかけた僕は、どもりながらも肯いてくれたのを確認してもう一度前を向いた。
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