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察しのいい人ならもうお分かりかと思うけど、昨日の犯人は彼女だった。
とにかく興奮していた東條さんを落ち着かせるのは骨が折れたが、落ち着いてくれた後はゆっくりと話すことが出来た。
「で? 僕に何か用があったの?」
口から言葉が出た後に少しだけ後悔した。ちょっと高圧的すぎたかな。
真っ青な顔で俯き正座する彼女へ、僕は最初に理由を尋ねた。
「あ、あの…つい、出来心で……」
相当反省しているように見える。
僕が最初抱いていた東條晶像とは百八十度違う、か細く弱々しい声で彼女は呟いた。
正直そんなに怒っているわけじゃない。何せあの様子から告白しようとしていたことを察した僕だ。多少のフライングくらい大目に見る。僕って寛大?
だが少しこの構図が面白くも感じている。そう思ってしまったら後戻り不可能。
僕はどっしりと仁王立ちで東條さんを見下ろした。
「出来心って言ってもさ、やっていいことと悪いことがあると思わない? あれ、打ち所悪かったらどっちか大怪我してたよ? もう少し気をつけて襲い掛からないと」
「は、え? ……あ、はい。すみません…」
「何ともなかったからよかったけどさ。次からは気をつけるように」
「はい……すみません」
僕の言葉を聞いてなぜか一瞬疑問符を浮かべたようだが、何とか理解してもらえたようで安心だ。
テンション的にもう少し怒ってみても反応が面白かったかもしれないが、東條さんの潤む瞳に心が折れてしまった。
反省の色を示すどころか染まってしまっている彼女に満足した僕は、再び質問を投げかけた。
「で? 結局何の用があって僕を引き止めたの?」
「あ、別に用があったとか、そんなんじゃなくて…なんというか…しょ、衝動的に」
「……ん? 衝動的?」
今度は僕の脳内に疑問符が乱立する。
もしや告白じゃない? なら何のために?
そんな僕を知ってか知らずか、恥ずかしそうに顔を赤く染めた彼女はポツリポツリと話し始めた。
「じ、実は。真人きゅんを陰から見守る、のが、趣味で……それでここに入っていくのが見えたから、追いかけてきたんだけど……」
緊張からか喉が乾燥するようで生唾を飲む東條さん。
「ひ、一人で楽しそうに歩く真人きゅんを見てると…その…どうしても抑えが効かなくなって……私はこんなに愛してるから、も、もしかしたら真人きゅんも、同じように……なんて思ったりして……です」
「ふむ、なるほどなるほど……」
終始何を言っているのか理解できなかったけど、僕を愛してくれているというのは伝わった。
つまり今回の行動は愛している→環状爆発→抱きついた、という感じか。つまり告白しようとしていたんだね!
やんややんやと言っているが、僕が好きで僕に告白しよとしていたということなら話が早いや。
嬉しさのあまり引きつる頬を静かに抓った僕は、テンションが上がっていることがバレないように話を誘導することにした。
「つ、つまり、東條さんは僕に言いたくて言いたくて仕方ないことがあるってこと?」
僕の言葉に勢いよく顔をあげた東條さん。
そのあまりの早さに少しビクついてしまったが、どうにか仁王立ちキープできた。
「い、言いたいこと……あり、あります! あります! それを言ったらゆ、許して、もらえる……?」
「まぁ、許す、かな?」
そもそもそんなに怒ってないんだけど。
急に生気を取り戻した彼女は大きく唾を飲み込むと、意を決したように口を開いた。
「あ、ああああ、あ愛してまする!! ま、真人きゅんをたべ、たた、食べたく存じます!」
「……ん?」
本日二度目が出てしまった。
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