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「あっ……ご、ごめんなさい! 違くて! 違くないけど違くて!」
唖然としていた僕を見てヤバいと思ったのか、東條さんが慌て出した。
口に入れたいほど愛してるってことで…いいのかな? よく自分の子供は目に入れても痛くないっていうし、そんな感じ?
「あはは、まぁ気持ちは伝わった? よ。こういうこと初めてだし、正直びっくりしてるけど……」
「そ、そそ、そうだよ、ね。あは、あはは」
何とも言えない雰囲気が流れ出してきた。
お互いに目を合わせるわけでもなく引きつった乾き笑いを浮かべること幾ばくか。
気持ちを切り替えたのか決心したのか、東條さんが軽く咳払いをした。
「あー、なんつったらいいんだろ。今更話し方とか元に戻しても意味なさそうだけど、一応、ね?」
「うん」
「わ、私さ。柄じゃないの分かってんだけど昔からちっさいのとか可愛いの好きでさ。最初はその延長で真人きゅ……真人くんを見てたんだけど。なんかだんだんそれとは違う意味で見るようになってきてて……あー、はっず……そんで」
姿勢を正した東雲さんは頬を赤く染め、癖なのか前髪の毛先を指先で遊ばせながら話し出した。
最初こそあんなだったけど、いざちゃんと告白されるとなると何だかむず痒い。
僕も何となく仁王立ちは違うような気がして、大きく開いていた股をバレないよう少しずつ閉じておく。
「とりあえずファンだ、ていう線引きだけしておこうと思ったけど、やっぱり無理で。気がついたらなんか、ヤバい感じになっててさ。結局こんな風になっちゃったんだけど。と、とりあえず、さっき言ったのは本心だから……」
「う、うん」
「わ、私は真人くんのことが大好きです。愛してます。だ、だから私と──付き合ってください!」
僕は告白されるなんて初めてだ。だからこの瞬間っていうのはどう始まってどう終わるのが正解なんてわからない。もしかしたら今日の流れは異常なのかもしれないし、これが正式な形なのかもしれない。
恋愛ドラマや小説もあんまり見たことない。ただ憧れはあった。
だから何となくだけど、この先どう答えたらいいのかは分かっている。それは多分──。
「はい、喜んで」
こういうことだろう。
そんな感じで僕らは付き合うことになった。
あの後狂喜乱舞した東條さんをもう一度止めるのが本当に大変だったけど、その話はいらないだろう。
とりあえずその日はLINEだけ交換してサヨナラした。だけどその日の晩異常にメッセージが来たり十分返信遅れるだけでなんか怪しい雰囲気になったりで少しだけ焦った。
最終的に電話でやりとりしてそういうのはやめてもらうようにしたんだけど。
昨日のやりとりを思い出して思わず冷や汗が流れた。
「ま、真人くん。あ、あーん」
「ん? あ、ありがと」
隣の東條さんより卵焼きが突き出されたのでそれを口に含む。
どうやら彼女、僕の分のお弁当も作ってきてくれたようで空き教室につくなり渡してくれた。
そこまではいいんだけど、いざ取り出してみたら容器は一つ。ただ大きかった。
東條さん曰くこの『あーん』がしたくて一つにまとめてきたらしい。これは普通なのか?
正解がわからない僕には何とも言えないが、今までにない心の暖かさを感じるのでよしとしたい。卵焼き甘いなぁ。
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