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影斗にヒラヒラと逃げられた烈は、ふてくされたように柵に手をかけ、独り言をつぶやいていた。
「…わかってんだよ、ポンコツだってことは…」
「――でも、俺はそんなお前に助けられた」
「!」
烈は横に立つ蒼矢に気付くと弾かれたように顔をあげたが、目元を優しく緩ませる彼の表情を見、すぐに頬を紅くしながら顔をそむけた。
「ありがとう」
「~、もういいよ、さっきも聞いた。…何度も言うなよ」
「立ち回りのことなら気にするな、お前はよくやってる。…確かに危なっかしい時もあるし、最適解じゃないかもしれないけど、お前がいつも本気で考えて行動してるのはわかってるから」
なんとなくさっきから動揺しているような様子に気付いたのか、蒼矢は気遣うように声をかけてくる。
烈はそんな彼から逃げるように、柵にかけた腕に顔を隠す。
「……」
烈は今、蒼矢と面と向かうことをためらっていた。そのためらいは、以前彼に対して抱いた、後ろめたい気持ちから来るものとはまた違っていた。
…こいつと…こんな無防備に笑ってくる蒼矢と今目を合わせたら、俺の中の何かが抑えられなくなっちまう気がする。
…今は一人になりたい。
…今は…、近寄らないで欲しい。
…でもやっぱり、傍にいて欲しい。
……どうして欲しいか自分でもわからない。
「…烈…?」
おし黙ってしまった烈に少し眉をひそめ、蒼矢は伏せた顔を窺おうとする。
「……!」
…違う。今はそれを気にしている場合じゃない。
…蒼矢が自分を気にかけ始めてる。これ以上見当違いなところで心配かけちゃいけない。格好が悪過ぎる。
烈は意を決して顔をあげ、ほとんど睨むように蒼矢へ視線を向けた。
「蒼矢」
「!? …何?」
「帰り、俺のバイクに乗っけてくからな」
「! いいけど…大丈夫か? 体力」
「平気だ。安全運転でお前の家まで送る」
「…わかった」
「そろそろ戻ろうかー。遅くならないうちにお土産買って、帰ろう」
ふたりの方へ葉月が呼びかけ、五人は道の駅へと引きあげる。
帰り道、烈は影斗へ声をかけた。
「…影斗。蒼矢は帰りは俺のバイクに乗せるから」
「! はぁ? さっきの今でニケツ出来んのかよ、お前…」
不意な烈の言葉に影斗は眉をひそめながら振り返ったが、やや強張った表情から注がれる視線を受け、口をつぐむ。
いまだ少し赤ら顔から元に戻らないまま、それでも烈は前を行く影斗をまっすぐ見据えていた。
「…出来る」
「……そ。じゃあ宜しく頼むわ。蒼矢が疲れたら車に乗り換えさせてやれよ」
「了解」
向き直った影斗は、前方を陽と並んで歩く蒼矢の後ろ姿を眺めた。
「……ふーん」
そして、何事かを把握したように小さく息をつく。
…そろそろ答えをきっちり出してもらわなきゃならねぇかな?
それぞれの思いを背負った後ろ姿を、傾き始める西日が照らしていた。
―終―
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